マレーシアの高速道路に、これまで「上限」しかなかった速度の表示に「最低推奨速度」が加わる試験が始まった。狙いは、追い越し車線に居座ってゆっくり走る、いわゆる「レーンホギング(lane hogging)」の抑制だ。2026年8月1日から10月31日までの3か月間、南北高速道路(PLUS)とSKVEの計3区間で実施される。

誰が、何を始めたのか

試験を主導するのは MIROS(Malaysian Institute of Road Safety Research/マレーシアで道路安全研究を担う政府系機関)。LLM(Malaysian Highway Authority/高速道路を所管する当局)、高速道路運営会社の PLUS Malaysia Berhad、および SKVE(South Klang Valley Expressway)と共同で、「Proof of Concept(POC=概念実証)」として行う。

対象区間には車線ごとの推奨最低速度を示す標識が設置される。「その車線を走るなら、最低でもこれくらいの速度で流れてほしい」という目安をドライバーに提示するしくみだ。

MIROS が挙げる狙いは次の5点。

  • 追い越し車線の「占拠」を防ぐ
  • 車両間の速度差を小さくする
  • 交通容量と流れを改善する
  • 危険な車線変更を減らす
  • 全体の道路安全を高める

車線ごとの推奨最低速度

報道各社が伝えている数字は以下の通り。

2車線区間

  • 右車線(追い越し側): 80km/h
  • 左車線: 60km/h

3車線区間

  • 右車線: 100km/h
  • 中央車線: 80km/h
  • 左車線: 60km/h

4車線区間

  • 右から順に 100km/h → 80km/h → 60km/h → 60km/h

マレーシアの高速道路の法定最高速度は原則110km/h。この上限は従来どおり取り締まりの対象で、今回の試験によって変わるものではない。あくまで「下限の目安」が新たに示されただけ、という理解が正しい。

試験区間は3か所

標識が設置された下記の区間のみが対象となる。

  • 南北高速道路(PLUS)E1: KM400.1〜KM388.0、北行き(Tanjung Malim〜Behrang)
  • 南北高速道路(PLUS)E2: KM267.8〜KM278.8、北行き(Bandar Ainsdale〜Nilai)
  • SKVE E26: KM9.6〜KM16.7(Ayer Hitam 料金所〜Bandar Saujana Putra)

「推奨」であって義務ではない

ここが最も誤解されやすい点だ。MIROS は、掲示される数字はあくまで推奨(advisory)であり、義務的な最低速度規制ではないと明言している。試験期間中に推奨速度を下回って走ったことを理由に反則金を科されることはない。

さらに、次のような状況では推奨速度に従う必要はないとされている。

  • 大雨
  • 視界不良
  • 深刻な渋滞
  • 交通事故の発生時
  • 補修工事による通行規制
  • 高速道路係員や警察の指示がある場合

そもそも「右車線の居座り」は以前から違反

マレーシアでは中央車線・右車線は追い越しのための車線と位置づけられており、そこを塞いで走り続ける行為(レーンホギング)は以前から交通違反として扱われてきた。警察当局は、この違反の反則金を最大RM2,000としている。

今回の試験は、この「すでに違反とされている行為」を、罰則の強化ではなく標識による誘導で減らせるかを検証する取り組み、という位置づけになる。

なお paultan.org は、平均速度から大きく外れた速度で走る車ほど事故に関与しやすいという交通工学の古典的な研究知見を紹介し、速度そのものだけでなく「車両間の速度差を縮めること」自体に安全上の意味があると解説している。

在住日本人が押さえておきたい4点

  • 「追い越したら左に戻る」という原則自体は日本の道路交通法(第20条・通行帯違反)と同じ。 違うのは、マレーシアが今回それを「最低速度」という数字と標識で示そうとしている点だ。
  • 推奨速度の標識が出るのは上記3区間だけ。 他の区間で探しても掲示はない。
  • 上限110km/hは変わっていない。 「右車線は100km/hが推奨だから」といって速度超過が正当化されるわけではない。
  • 10月31日でいったん試験は終了。 その後に全国展開されるのか、義務化されるのかは現時点で公表されていない。

南北高速道路を使って長距離を移動する機会がある人は、標識が目に入ったら「いま自分は、この車線にふさわしい速度で走れているか」を確認する材料として使いたい。マレーシアの高速道路では、遅すぎることもまた、周囲にとってのリスクになる。


参考: Malay Mail(2026年8月7日)、paultan.org(2026年8月1日・8月7日、およびレーンホギングの反則金に関する2025年2月3日の記事)、SAYS(2026年8月3日)、WeirdKaya(2026年8月4日)、MTown(2026年8月7日)。情報は2026年8月7日時点のもの。