マレーシアの道路交通に関する基本法「1987年道路交通法(Road Transport Act 1987、通称 Act 333)」の改正案が、2026年7月20日〜8月4日の上院(Dewan Negara)会期で可決され、両院を通過した。違法レースの取り締まり強化が最大の柱だが、罰金の下限引き上げ、未処理の交通違反がある車両の出入国制限、電動キックボードの押収手続きなど、レースとは無縁の一般ドライバーにも関係する条項が数多く含まれている。

マレーシアで車やバイクを運転する在住日本人が押さえておきたいポイントを、報道されている範囲で整理する。

まず審議の経過を確認

  • 2026年6月22日(月): アンソニー・ローク運輸相が下院(Dewan Rakyat)に法案を提出(第一読会)
  • 2026年6月24日: 下院で可決
  • 2026年7月21日: 上院(Dewan Negara)で第二読会が行われた(Malay Mail 2026年7月21日)
  • 2026年8月4日: 上院が7月20日から続いた10日間の会期を終了。「今会期に可決された12法案」の1つとして Road Transport (Amendment) Bill 2026 が挙げられた(Malay Mail 2026年8月4日)

⚠️ 本記事作成時点(2026年8月12日)では、国王裁可・官報告示を経た正式な施行日は確認できていない。後述する反則金の上限引き上げについてのみ、2029年1月1日という適用開始日が明示されている。「もう全部始まっている」と早合点しないよう注意したい。

ポイント1: 「罰金」と「反則金」は別物 — ここを混同しない

報道では「RM500」という数字が繰り返し登場するが、実際には性質の異なる2つの金額が同時に動いている。ここを混同すると理解を誤る。

(1) 裁判所が科す罰金(denda)の下限が RM300 → RM500 に

有罪判決を受けた場合に裁判所が言い渡す罰金の下限が引き上げられる。Malay Mail は、裁判所が有罪判決時に科す罰金と、取締官が提示して裁判を回避できる反則金とを区別して説明しており、Free Malaysia Today も罰金の下限引き上げと反則金の上限を定める条項(Act 333 第120条の改正)を別々の項目として報じている。対象となる違反には次のものが含まれる(The Edge Malaysia、Free Malaysia Today)。

  • ナンバープレートの不表示
  • 有効な運転免許を持たない運転
  • 速度超過
  • 車両の構造・装備・使用に関する規定違反
  • 交通標識・信号の無視
  • 違法な公道レース

(2) 反則金(kompaun/通称 saman)の上限が RM300 → RM500 に。ただし2029年1月1日から

裁判にかけず納付して処理する反則金の上限も引き上げられる。ただしこちらには移行期間が設けられており、新しい上限が適用されるのは2029年1月1日からとされている。SAYS は700件を超える交通違反が対象になると報じている。

ローク運輸相は、これは科すことができる反則金の上限の変更であって、実際の額は違反の種類と重大性、および納付の時期によって決まる、という趣旨の説明をしている(The Edge Malaysia)。つまり、すべての切符がただちにRM500になるという話ではない。

ポイント2: 違法レース・「速度試し」が独立した犯罪に(新設 第42A条)

今回の改正の目玉が、新しく設けられる第42A条だ。公道でのレースや「速度試し(speed trial)」そのものを独立した犯罪として扱う。

ローク運輸相は、第42A条の主な目的は公道でのレースや速度試しに対して早い段階で取り締まりに動けるようにすることであり、この改正で現行法の抜け穴をふさぐ、と述べている(paultan.org)。従来は事故や死傷が発生してから立件するかたちになりやすく、それが取り締まりを難しくしていた。

報じられている罰則は次のとおり。

  • 初犯: 罰金 RM2,000〜RM10,000、または2年以下の禁錮、あるいはその併科
  • 再犯: 罰金 RM5,000〜RM20,000、または5年以下の禁錮、あるいはその併科

paultan.org は、この条項が二輪車だけでなく乗用車や高性能車を含むすべての自動車に適用されると伝えている。「マット・レンピット(暴走バイク)の話でしょう」と片付けられない点に注意したい。また Malay Mail によれば、この違反は令状なしで逮捕できる犯罪(seizable offence)として扱われる。

ポイント3: 「トント」(見張り役)も処罰対象に(新設 第110B条)

マレーシアでは、取り締まり現場の情報を仲間に流したり、取締車両を尾行したりする見張り役を「トント(tonto)」と呼ぶ。新設される第110B条は、この行為を処罰対象にする。

対象となるのは、取締官への暴行・脅迫・妨害、取り締まり作戦の情報を漏らす行為、取締車両の尾行など。報じられている罰則は罰金 RM10,000〜RM50,000、または1年以上5年以下の禁錮、あるいはその併科で、車両の押収もあり得るとされる(Malay Mail)。

ポイント4: 免許停止中の運転が大幅に厳罰化

免許の停止・失効処分を受けているのに運転した場合の罰則が引き上げられる。

  • 従来: 禁錮1年以下、または罰金 RM5,000以下
  • 改正後: 罰金 RM3,000〜RM10,000、または3年以下の禁錮、あるいはその併科

罰金額もさることながら、禁錮の上限が1年から3年に延びる点が大きい。

ポイント5: 未処理の交通違反があると「車両」の出入国を止められる

在住日本人にとって実務上いちばん影響が大きいかもしれないのが、この条項だ。

Malay Mail は、未処理の交通違反がある車両についてマレーシアへの入国・出国を止められるようにする条項(第66H条・第66J条・第119C条)が含まれると報じている。SAYS も、未解決の案件について当局が車両の越境を止められるようになる、と伝えている。

⚠️ 報じられている内容は「車両」の越境を止めるというものである。空路で出国する個人の話とは別に読むべきだが、シンガポールやタイへ自家用車で越境する機会がある人は、未納の saman を放置しないほうがよい。国境で足止めされてから慌てても遅い。

ポイント6: 電動キックボードなどマイクロモビリティの扱いが明文化

電動キックボードやパーソナルモビリティ機器(マイクロモビリティ車両)について、当局が押収・留置・処分するための手続きが法律上に整備される(The Edge Malaysia、SAYS)。コンドミニアム周辺や公道で電動キックボードを使っている人は、今後の運用ルールに注意しておきたい。

ポイント7: 虚偽申告・書類偽造の厳罰化

車両登録や各種申請での虚偽申告、書類の偽造に対する罰則も強化される。The Edge Malaysia は上限を罰金 RM200,000 または禁錮10年と報じ、SAYS は罰金 RM10,000〜RM200,000、禁錮1〜10年としている。盗難車の名義ロンダリングなどを念頭に置いた強化とされる。

手続きのオンライン化にも法的根拠

Malay Mail は、軽微な事故の届出を将来的に所定のオンラインプラットフォームやアプリで行い、警察署に足を運ばずに済ませられるようにする方向の条項(第52条関連)に触れている。SAYS も、電子的な通知やオンラインでの事故届出の仕組みに法的な裏付けを与える内容だと伝えている。JPJ(道路交通局)関連手続きのオンライン化が今後さらに進む見通しだ。

在住日本人が今のうちにやっておきたいこと

  • 未納の saman がないか確認する。放置していた古い切符が、車両の越境時に問題になり得る
  • 免許の有効性を確認する。「有効な運転免許を持たない運転」は罰金下限が RM500 に引き上げられる対象に含まれている
  • 家族や同僚に車を貸すときは相手の免許を確認する。Malay Mail によれば、無免許者に自分の車を運転させる行為も罰金下限引き上げの対象に挙げられている
  • 「速度試し」は冗談でもやらない。事故が起きていなくても立件され得る建て付けに変わる

注意点

  • 本記事は2026年8月12日時点で確認できた報道にもとづく。正式な施行日は官報告示によって決まるため、実際にいつからどの条項が適用されるかは今後の公式発表を確認してほしい
  • 罰金額は裁判所の判断による。反則金の額も違反の種類・重大性・納付時期によって変わる
  • 個別の事案については弁護士など専門家に相談を

参考: The Edge Malaysia(2026年6月22日・6月23日)、Malay Mail(2026年6月24日・7月21日・8月4日)、Free Malaysia Today(2026年6月22日)、Bernama(2026年6月23日)、paultan.org(2026年6月25日)、SAYS(2026年6月26日)。人物の日本語表記は在マレーシア日本国大使館およびジェトロの公開資料で確認した。情報は2026年8月12日時点のもの。