2026年8月17日、マレーシアの従業員積立基金(EPF/マレー語略称KWSP)が2026年上半期(1〜6月)の運用実績を公表した。運用収益は575億リンギで、前年同期の389億2,000万リンギから48%増えた。
この数字は、数年前まで在住日本人にとって「マレーシア人の話」だった。だが2025年10月分の給与から、非マレーシア国籍の従業員にもEPFへの拠出が義務づけられている。Employment Pass で働く駐在員も現地採用者も、いまは自分のお金をこの基金に預けている会員だ。上半期の運用実績は、そのまま「自分の口座に将来つく配当の原資」の話になる。
上半期の運用収益は575億リンギ、前年比48%増
EPFが発表した数字は次の通り。
- ●2026年上半期(1〜6月)の運用収益: 575億リンギ(前年同期389億2,000万リンギから48%増)
- ●2026年第2四半期(4〜6月)の運用収益: 297億7,000万リンギ(前年同期206億1,000万リンギから44%増)
- ●2026年6月30日時点の総運用資産: 1兆5,400億リンギ
第2四半期の収益を貯蓄区分別に見ると、Simpanan Konvensional(従来型)が241億6,000万リンギ、Simpanan Shariah(シャリア型)が56億1,000万リンギだった。
収益の内訳 — 7割が株式、6割強が海外から
第2四半期(297億7,000万リンギ)の資産クラス別の内訳は以下のとおり。
- ●株式: 209億4,000万リンギ(全体の約70%)。前年同期の137億7,000万リンギから52%増
- ●債券などの固定利付資産: 69億1,000万リンギ(同23%)
- ●不動産・インフラ: 13億リンギ
- ●短期金融商品(マネーマーケット): 6億2,000万リンギ
地域別では、海外投資が第2四半期の運用収益のうち192億9,000万リンギ(全体の約65%)を稼いだ。総運用資産に占める海外資産の比率は39%で、資産の4割弱が収益の3分の2近くを生んだ計算になる。世界的な株高が数字を押し上げた構図がはっきり出ている。
「この数字が全部配当になるわけではない」
EPFは発表にあたって但し書きを付けている。上半期の575億リンギには、主に為替変動による有価証券の未実現評価損益(mark-to-market)が含まれており、例年通りこの未実現の損益は配当として分配されない、という趣旨の説明だ。
つまり、48%増という見出しの数字をそのまま「配当も48%増える」と読むことはできない。
EPFのAhmad Zulqarnain Onn最高経営責任者(CEO)は、New Straits Timesに引用されたコメントで次のように述べている。
「第1四半期と同様、市場と地政学的なリスクが高い状態が続いているため、第2四半期も収益の前倒し計上(front-load)を続けた」
(原文: "Similar to the first quarter, we continued to front-load income during the second quarter as market and geopolitical risks remain elevated.")
「我々の焦点は、底堅いポートフォリオを背景に、持続可能な長期リターンを届けることにある」
(原文: "Our focus remains on delivering sustainable long-term returns, backed by a resilient portfolio.")
好調な上半期がそのまま下半期に続くとは限らない、という慎重なトーンでの説明である。
なぜ在住日本人に関係があるのか — 2025年10月からの義務化
ジェトロ(日本貿易振興機構)のビジネス短信(2025年7月23日)によれば、外国人従業員のEPF加入は2025年10月分の給与から義務化され、2025年11月が拠出開始月として扱われる。
- ●拠出率—雇用主が月額給与の2%、従業員も2%
- ●対象—有効なパスポートと就労ビザを保有する、75歳未満の非マレーシア国籍従業員
- ●除外—家事労働者(ただし任意加入は可能)
- ●納付期限—雇用主が従業員分と雇用主分の双方を翌月15日までにリンギ建てで納付
ジェトロは、EPFが義務化の目的を「マレーシア人従業員と外国人従業員間の公平性を高め、国際的な社会保障基準に則して、国籍に関係なく全労働者に平等な待遇を供与すること」と説明していると伝えている。
この義務化は予定どおり施行され、すでに定着している。PayrollOrg(米国給与協会)が2026年1月26日に伝えたところでは、拠出義務は「すでに2025年10月分の給与から適用されている」状態で、約6万社の雇用主のもとで約130万人の外国人労働者が拠出している。一方で対応が済んでいない雇用主も残っており、EPFは取り締まりを強化している。また2026年1月以降、非マレーシア国籍の会員は拠出金が自分の口座に正しく反映されるよう、EPF窓口での指紋登録を済ませることが推奨されている。
対象となるパスの種類について、グローバルモビリティ税務のVialto Partnersは、EPF理事会の2025年6月25日付メディアリリースに基づくものとして、Visitor's Pass(外国人労働者向け。外国人家事労働者を除く)、Employment Pass、Professional Visitor Pass、Student Pass(就労が認められる場合)、Residence Pass、Long-Term Social Visit Pass を挙げている。日本人の多くが保有する Employment Pass は、この対象に含まれる。
なお同社の解説では、この「雇用主2%・従業員2%」という率は、1998年8月1日以降にEPF会員となった非マレーシア国籍者に適用されるものとされている。同じ非マレーシア国籍でも区分によって率は大きく異なり、マレーシアの永住権(PR)を持つ人、および1998年8月1日より前にEPF会員となった人は、60歳未満であれば従来どおり雇用主12〜13%・従業員11%が適用される。ジェトロも「永住権を持つ外国人従業員は従来どおり、60歳未満の場合は月給に応じて雇用主12〜13%、従業員は11%のままで変化なし」と伝えている。自分がどの区分に当たるかは、給与明細のEPF控除額が月給の2%か11%かで見当がつく。
配当はどう決まるのか — 2025年分は6.15%
EPFの配当は年1回、決算後に宣言される。直近の実績は次の通り。
- ●2025年分の配当率: Simpanan Konvensional 6.15%/Simpanan Shariah 6.15%(2026年2月28日発表)
- ●総支払額: 796億リンギ(Simpanan Konvensional 671億リンギ、Simpanan Shariah 125億リンギ)
- ●会員口座への入金日: 2026年3月1日
2026年上半期の運用収益が大きく伸びたことは前向きな材料だが、前述の通り未実現の評価損益は分配対象外であり、下半期の市況次第でもある。2026年分の配当率は、2027年初めの発表を待つことになる。
マレーシアを離れるときはどうなるのか
拠出したお金が帰国時にどうなるかは、在住者にとって最も気になる点だろう。
Vialto Partnersの解説によれば、マレーシアを恒久的に離れる、または雇用が終了する非マレーシア国籍の従業員は、拠出金と宣言済みの配当を合わせて全額引き出す申請ができ、その際にマレーシア側で追加の税負担は生じないとされる。ただしこれはマレーシア国内の課税についての説明であり、日本に帰国して受け取る場合の日本側の税務上の取り扱いは別問題である。金額が大きくなる場合は、事前に税理士へ確認しておきたい。同社は、パスの有効期限が切れる2か月前から手続きを始めることを勧めている。
個人金融メディアのRinggitPlusも、外国人労働者・駐在員は「Leaving Country Withdrawal(出国引き出し)」の枠組みで全口座——Akaun Persaraan(第1口座)、Akaun Sejahtera(第2口座)、Akaun Fleksibel(第3口座)——の残高を引き出せると解説している。同メディアによれば、マレーシア国籍者がこの制度を使うには国籍離脱が必要なのに対し、外国人の場合は「今後の渡航予定」ではなくマレーシアでの雇用が終了したかどうかが基準になる。必要書類としては、退職または契約終了を示す雇用主の書面、所得税のクリアランスまたはイミグレーションによる就労許可の取消書類、チェックアウトメモなどが挙げられている。
ただし、これらは民間の解説記事に基づく整理である。実際の申請要件・必要書類は個々の在留資格や雇用形態によって変わりうるため、手続きの前にEPF(KWSP)の公式窓口で最新の条件を確認してほしい。
在住者の実務メモ
- ●給与明細にEPF(KWSP)の控除欄が入っているかを確認する。2025年10月分の給与から、対象者は2%(永住権保持者・1998年8月より前からの会員は11%)が天引きされているはずだ
- ●帰国・転職でマレーシアを離れることが決まったら、パス失効の2か月前を目安に引き出し手続きの準備を始める
- ●引き出しには税務クリアランスなど他省庁の書類が絡む。退職日の直前に慌てないよう、逆算して動くのが安全
参考: The Star(2026年8月17日)、New Straits Times(同)、Nanyang/e-nanyang.my(同)、The Edge Malaysia(2026年2月28日)、The Sun(2026年2月28日)、PayrollOrg(2026年1月26日)、ジェトロ ビジネス短信(2025年7月23日)、Vialto Partners リージョナルアラート(EPF理事会2025年6月25日付メディアリリースに基づく)、RinggitPlus。数値・制度はいずれも2026年8月17日時点の公開情報に基づく。手続きの詳細はEPF(KWSP)公式の案内を確認のこと。