マレーシア移住を考えるとき税金は大きな関心事ですが、税負担を大きく左右するのは永住権(PR)の有無よりも「税務上の居住者かどうか」です。居住者の個人所得税は0〜30%の累進課税、非居住者は一律30%。海外から受け取る所得は、個人なら2036年12月31日まで条件付きで免税です。一方、PRの有無で差が出る代表例が不動産を売ったときの税金(RPGT)です。この記事では、マレーシア内国歳入庁(LHDN)と財務省の公式情報をもとに、2026年9月時点の制度を整理します。
本記事は2026年9月に全面的に書き直しました。以前の版にあった「海外所得の免税は2026年まで」「居住者税率8%(RM35,001〜50,000)」「外国人のRPGTは5年超で5%」「フォームBTはイスラム教徒向け」などの記述は誤りでした。
税金を左右するのは「税務上の居住者」かどうか
居住者の判定基準(所得税法第7条)
LHDNは、個人が次のいずれかに当てはまる場合に、その年(基準年)の税務上の居住者になると説明しています。
- 1その年にマレーシアに合計182日以上滞在した
- 2その年の滞在は182日未満だが、前年または翌年の連続182日以上の滞在とつながっている(仕事・会議・留学、本人や家族の病気、合計14日以内の私的な訪問による一時的な出国は、前後にマレーシアにいれば滞在期間の一部とみなされる)
- 3その年に合計90日以上滞在し、かつ直前4年のうち3年について、居住者だったか各年90日以上滞在していた
- 4翌年に居住者となり、かつ直前3年間も居住者だった
判定基準は滞在日数と滞在のつながりで決まり、国籍やビザの種類は条件に入っていません。
居住者と非居住者の違い
- ●居住者—累進税率が適用され、所得税法の各種控除(本人と扶養親族の控除RM9,000など)を受けられます。本人と扶養親族の控除は、2027年度予算案で賦課年度2027からRM12,000へ引き上げることが提案されています。
- ●非居住者—課税所得に一律30%が課され、控除は受けられません。
居住者の個人所得税率
LHDN公式サイトに賦課年度(YA)2023・2024・2025の税率として掲載されている表です(2026年9月確認)。財務省の「Budget 2027 Tax Measures」(2026年10月9日)もこの表を現行の税率として示しており、賦課年度2026も同じです。なお2027年度予算案は、賦課年度2027からRM70,001〜100,000を18%に、新設のRM100,001〜150,000を24%に引き下げ、30%の適用をRM200万超からRM100万超に改める案を示しています(法改正の成立が前提)。
| 課税所得(RM) | 税率 |
|---|---|
| 0〜5,000 | 0% |
| 5,001〜20,000 | 1% |
| 20,001〜35,000 | 3% |
| 35,001〜50,000 | 6% |
| 50,001〜70,000 | 11% |
| 70,001〜100,000 | 19% |
| 100,001〜400,000 | 25% |
| 400,001〜600,000 | 26% |
| 600,001〜2,000,000 | 28% |
| 2,000,000超 | 30% |
※ 以前の版に載せていた「8%・13%・21%・24%・24.5%」などは、LHDNが賦課年度2022の税率として掲載している古い値で、現行の表とは異なります。
海外から受け取る所得:個人の免税は2036年12月31日まで
マレーシアでは2022年1月1日から、居住者が国外で得てマレーシアで受け取った所得(Foreign-Sourced Income)も課税対象になりました。ただし、財務省の「Budget 2026 Tax Measures」によると、個人が受け取る所得(パートナーシップ事業を通じたものを除く)は、2022年1月1日から2036年12月31日まで免税とされています。
以前の版では「個人の猶予は2026年まで」と書いていましたが、これは延長前の古い情報です。免税を受けるための条件(源泉地国で課税済みであることなど)や、申告・書類保管の義務については、こちらの記事で詳しく解説しています。
PRの有無で差が出る例:不動産譲渡益税(RPGT)
マレーシアの不動産を売って利益が出ると、不動産譲渡益税(RPGT)がかかります。税率は、売る人の区分と保有期間で決まります。LHDNの税率表(個人の主な区分)は次のとおりです。
| 保有期間 | 第1部:マレーシア国民の個人など(2022年1月1日以降の処分) | 第3部:国民でも永住者でもない個人(2019年1月1日以降の処分) |
|---|---|---|
| 取得から2年以内 | 30% | 30% |
| 3年目 | 30% | 30% |
| 4年目 | 20% | 30% |
| 5年目 | 15% | 30% |
| 6年目以降 | 0% | 10% |
- ●LHDNの区分では、第3部は「国民でもなく永住者でもない人」です。永住者(PR)の個人は第3部には当たりません。
- ●以前の版の「5年超は外国人でも5%」は誤りで、国民でも永住者でもない個人は、5年目までが30%、6年目以降が10%です。
永住権(PR)とMM2Hの関係
- ●MM2Hは、区分に応じて5〜20年の期限付きで発給される長期滞在用の「パス」です(MOTAC MM2H公式サイト)。
- ●観光芸術文化相は2024年6月15日、新しいMM2Hの参加者は永住権(PR)を申請できないと述べています(The Malaysian Insight報道)。
- ●MM2Hの要件(定期預金・住宅購入・滞在日数など)はこちらの記事にまとめています。なお、MM2HのSilver・Gold・SEZ/SFZ区分では、マレーシアでの事業・投資・就労が認められていません(Platinumは可)。
確定申告のフォームと期限(2026年に行う賦課年度2025の申告)
LHDNの「Return Form Filing Programme 2026」によると、個人の主なフォームは次のとおりです。
| フォーム | 対象 | 期限 |
|---|---|---|
| BE | 事業を営んでいない居住者 | 2026年4月30日(電子申告e-BEは5月15日まで猶予) |
| B | 事業を営む居住者 | 2026年6月30日(電子申告e-Bは7月15日まで猶予) |
| BT | 居住者のうち、知識労働者・専門労働者・重要ポストに就く外国人労働者 | 事業なし:2026年4月30日/事業あり:2026年6月30日(電子申告は各15日の猶予) |
| M | 非居住者 | 事業なし:2026年4月30日/事業あり:2026年6月30日(電子申告は各15日の猶予) |
- ●申告はLHDNのオンラインシステム「MyTax」(https://mytax.hasil.gov.my )で行えます。
- ●以前の版の「BT=イスラム教徒(ザカート申告)向け」は誤りです。
税務の相談先
所得税法第153条により、マレーシアで納税者の代理として税務の業務を行えるのは、財務省の承認を受けたタックスエージェントです(LHDN)。在住日本人の団体としては「クアラルンプール日本人会(The Japan Club of Kuala Lumpur)」があります。以前の版で日本人会を「JASSO」と書いていたのは誤りです。
日本側で気をつけること
住民税は「1月1日時点の住所」で決まる
総務省によると、個人住民税は1月1日にその市町村に住所がある人に対して課税されます。総務省の案内では、税額は前年1月1日〜12月31日の所得などで決まり、1月2日以降に出国した場合でも支払いが必要で、出国までに納められない場合は、出国前に納税管理人を定めて市区町村に届け出る必要があるとされています。
日本とマレーシアの租税条約
日本とマレーシアの間には租税条約があり、財務省によると署名は1999年2月19日、発効は1999年12月31日です。個別の所得にどちらの国が課税するかは所得の種類によって異なるため、条約の条文や専門家に確認してください。
まとめ
| ポイント | 内容(2026年9月時点) |
|---|---|
| 居住者の判定 | 年182日以上の滞在が基本(ほかに前後の年とのつながり等の基準あり)。国籍・ビザの種類は条件にない |
| 税率 | 居住者は0〜30%の累進(RM35,001〜50,000は6%)、非居住者は一律30%で控除なし |
| 海外からの所得 | 個人はパートナーシップ事業経由を除き、2036年12月31日まで免税(条件あり) |
| 不動産の売却益 | 6年目以降、国民などは0%、国民でも永住者でもない個人は10% |
| MM2HとPR | 新制度のMM2H参加者はPRを申請できない(2024年6月の大臣発言) |
本記事は公表されている制度を整理したもので、個別の税務判断を示すものではありません。実際の申告は、財務省承認のタックスエージェントや日本の税理士に相談してください。
出典
- ●マレーシア内国歳入庁(LHDN)「Residence Status」: https://www.hasil.gov.my/en/individu/taraf-mastautin/
- ●LHDN「Introduction Individual Income Tax」(非居住者の税率・控除、フォームの種類): https://www.hasil.gov.my/en/individu/pengenalan-cukai-pendapatan-individu/
- ●LHDN「Tax Rate」(賦課年度2023・2024・2025): https://www.hasil.gov.my/en/individu/kadar-cukai/
- ●LHDN「Tax Relief」: https://www.hasil.gov.my/en/individu/pelepasan-cukai/
- ●LHDN「Real Property Gains Tax (RPGT) Rates」: https://www.hasil.gov.my/en/ckht/kadar-cukai-keuntungan-harta-tanah/
- ●LHDN「Return Form (RF) Filing Programme For The Year 2026」: https://www.hasil.gov.my/wp-content/uploads/rf-filing-programme-for-2026.pdf
- ●LHDN「Tax Agent」: https://www.hasil.gov.my/en/ejen-cukai/
- ●マレーシア財務省「Budget 2026 Tax Measures」Appendix 8: https://belanjawan.mof.gov.my/pdf/belanjawan2026/ucapan/tax-measures.pdf
- ●観光芸術文化省(MOTAC)MM2H公式サイト「Guidelines」: https://www.mm2h.gov.my/apply/guidelines
- ●The Malaysian Insight「New MM2H applicants not eligible for PR status, Tiong says」(2024年6月15日): https://www.themalaysianinsight.com/s/484325
- ●財務省(日本)「我が国の租税条約等の一覧」: https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/tax_convention/tax_convetion_list_jp.html
- ●総務省「個人住民税」: https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/149767_03.html
- ●総務省「外国人の方の個人住民税について」: https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/individual-inhabitant-tax.html
- ●クアラルンプール日本人会(The Japan Club of Kuala Lumpur): https://www.jckl.org.my/
※ 本記事の情報は2026年9月24日時点で上記の公式情報を確認したものです。税制は毎年の予算案などで変更されることがあります。
