ジョホール州南部の大規模複合都市「フォレストシティ」が、かつての「ゴーストシティ」イメージを脱し、国際的な居住地として注目を集めている。2026年12月の運行開始を目標とするRTS Link(ジョホールバル−シンガポール急速輸送システム。正式な開業日は2026年9月24日時点で未発表)と、2025年1月に発効したジョホール・シンガポール特別経済区(JS-SEZ)の優遇制度が重なり、外国人居住者・リモートワーカー・投資家の流入が加速しているのだ。

RTS Linkで「駅間約5分」が現実に

RTS Linkは、ジョホールバルのブキッチャガル駅とシンガポールのウッドランズノース駅を結ぶ全長約4kmの鉄道で、駅間の所要時間は約5分、ピーク時の輸送能力は片方向で1時間あたり最大1万人とされる(シンガポール陸上交通庁〔LTA〕)。運行開始時期は、シンガポール政府とマレーシア区間のインフラを開発するMRT Corpが2026年12月を目標とする一方、マレーシアの国営通信Bernamaは2027年1月1日の運行開始予定と伝えている。正式な開業日は両国の運輸相が共同で発表する予定で、2026年9月24日時点では未発表だ。

家賃で比較すると、ジョホールバルのコンドミニアムは月額 RM2,200(約 SGD647) 程度。シンガポール側の同等物件は一般的にジョホールの数倍の賃料水準であり、RTS Link開通後の具体的な運賃は未公表だが、家賃だけでも大きなコスト差がある。「シンガポールで働き、マレーシアで暮らす」という選択肢が初めて現実的なコストで成立し始めた。

JS-SEZ:所得税15%と就労許可の簡素化

2025年1月にマレーシア・シンガポール両政府が署名したJS-SEZ協定は、ジョホール南部の約3,588km²を対象とし、フォレストシティはその中核的な金融サービス地区(SFZ)として位置づけられている。外国人専門職向けの主な優遇内容は以下の通りだ。

  • ●金融・テクノロジー・高付加価値分野の資格保有者を対象に所得税率15%(マレーシアの通常最高税率は30%)
  • ●就労許可のファストトラック審査
  • ●居住権取得の促進パス

この協定を受けて、シンガポール企業によるジョホール投資コミットメントは2024年1月以降でS$55億超に達した(2026年7月時点)。マレーシア政府が把握する潜在的投資パイプラインもRM730億規模に上る。

MM2H「SEZ/SFZ区分」の状況

マレーシアのセカンドホームビザ「MM2H」には経済特区向けのSEZ/SFZ区分があり、この区分の参加者はフォレストシティ(ジョホール州)の住宅の購入・所有が必須とされている。MM2H公式サイト(観光芸術文化省〔MOTAC〕、2026年9月24日確認)による主な条件は次の通りだ。

  • ●
    定期預金—21〜49歳はUSD6万5,000、50歳以上はUSD3万2,000(Silver区分はUSD15万、Gold区分はUSD50万、Platinum区分はUSD100万)
  • ●
    主申請者の年齢—21歳以上(Silver・Gold・Platinumは25歳以上)
  • ●
    パスの期間—10年(更新可)
  • ●
    住宅—フォレストシティでの購入・所有が必須。最低価格は「ジョホール州の不動産取得方針による」とされ、Silver(RM60万)・Gold(RM100万)・Platinum(RM200万)のような固定額は公式サイトに示されていない。購入した住宅は10年間売却できない
  • ●
    事業・投資活動と就労—認められない

MOTACの2025年12月のお知らせでは、SEZ/SFZ区分の住宅はフォレストシティの開発業者から購入するもの(第三者からの購入は不可)で、パスの発給(エンドースメント)前に購入・所有していることが条件とされている。Forest City側の発表(2026年7月2日)によると、2024年10月1日〜2026年3月31日にSFZ区分で593人が承認された。

同じ発表によると、2026年6月までに9社のファミリーオフィスが認可を受けており、資産管理や法人設立の拠点として活用が始まっている。

現状:「ゴーストシティ」から脱却しつつある

2020年代前半に低入居率で批判を浴びたフォレストシティだが、2026年現在の実態は変わりつつある。

指標現状
居住者数20か国以上から約1万5,000人以上
商業施設3万m²のショッピングモールに100店舗以上が営業
オフィス入居率第1期5万平方フィートで59%
認可ファミリーオフィス9社(2026年6月)
累計税収・雇用RM7億9,000万、1万人の雇用創出

ただし、依然として入居率が低いエリアも残っており、物件価値の回収には長期視点が必要との分析もある。外国人(マレーシア国籍・永住権を持たない個人と外国企業)が2026年1月1日以降に住宅を購入する場合、譲渡証書の印紙税は購入価格(市場価格の方が高ければ市場価格)の8%(RM100ごとにRM8)とされており(マレーシア内国歳入庁〔LHDN〕の印紙税ガイドライン)、初期費用が大きいため、慎重な検討が欠かせない。

日本人にとっての選択肢

KLやシンガポールにオフィスを持ちながら、より広い住環境や低い生活コストを求める日本人駐在員・リモートワーカーにとって、ジョホール/フォレストシティは新たな居住選択肢として浮上してきた。RTS開通後は国境越えの負担が大幅に下がるため、2027年以降に現地視察を検討する動きも増えそうだ。

なお、所得税15%優遇は業種・雇用形態により適用条件が異なる。MM2HビザやSFZ就労許可の取得可否も個人の状況によって変わるため、必ず現地の行政書士・移住専門家への個別相談を行うことを強く推奨する。


参考出典

  • ●The Manila Times(2026年7月2日取得): https://www.manilatimes.net/2026/07/02/tmt-newswire/media-outreach-newswire/forest-city-sfz-highlights-early-js-sez-traction-as-investment-pipeline-expands/2377391
  • ●EQS News(2026年4月23日取得): https://www.eqs-news.com/news/corporate/forest-city-malaysia-2026-the-truth-behind-the-ghost-city-label/95d88876-d83e-41b1-a4c1-3a5e9e823eec_en
  • ●PropCashflow.my(2026年取得)
  • ●ExpatGo(2026年7月4日取得)
  • ●シンガポール陸上交通庁(LTA)RTS Linkプロジェクトページ(2026年9月24日確認): https://www.lta.gov.sg/content/ltagov/en/upcoming_projects/rail_expansion/JB-Singapore_RTS_link.html
  • ●シンガポール内務省(MHA)エドウィン・トン法相兼第2内務相の国会演説(2026年5月5日): https://www.mha.gov.sg/media-room/newsroom/second-reading-of-the-cross-border-railways-border-control-co-location-bill/
  • ●MRT Corp メディアリリース(2026年1月21日): https://www.mymrt.com.my/wp-content/uploads/2026/01/MRTC-FOR-IMMEDIATE-RELEASE-RTS-LINK-TAKES-SHAPE-WITH-COMPLETION-OF-MAJOR-FACADE-STEEL-WORKS-WEBSITE-1.pdf
  • ●Malay Mail(Bernama配信、2026年8月18日): https://www.malaymail.com/news/malaysia/2026/08/18/malaysia-and-singapore-to-announce-rts-link-fare-soon-loke-says-talks-moving-smoothly/231784
  • ●MM2H公式サイト(MOTAC)「Category Overview」(2026年9月24日確認): https://www.mm2h.gov.my/category/overview
  • ●MM2H公式サイト(MOTAC)「Special Economic Zone / Special Financial Zone」(2026年9月24日確認): https://www.mm2h.gov.my/category/sez
  • ●MOTAC「Pengumuman Terkini Program MM2H」(2025年12月): https://www.motac.gov.my/wp-content/uploads/2025/12/Pengumuman-Terkini-Program-MM2H.pdf
  • ●LHDN 印紙税ガイドライン(第1附則、第32項(ab)。2026年7月1日作成版): https://www.hasil.gov.my/wp-content/uploads/garis-panduan-pengenaan-duti-setem-jadual-pertama-as-1949.pdf