マレーシア内務省と移民局は、新しい出入国管理システム「MyNIISe(マイニース、National Integrated Immigration System)」について、2026年9月の全面実施を目標に掲げている。1990年代から稼働してきた旧システム「MyIMMs」を置き換えるもので、顔認証・QRコード・パスポートの3方式で通関処理を4〜5秒に短縮することを目指す。一方で、置き換え対象のMyIMMs自体は移行完了前の2026年4〜5月にも大規模障害を起こしており、在住・訪問日本人にとっては「制度が変わる過渡期」であることを踏まえた備えが必要になる。
MyNIISeとは何か
- ●正式名称は「National Integrated Immigration System」、通称「MyNIISe(マイニース)」。マレーシア内務省・移民局が主導する出入国管理システムの刷新プロジェクトで、1990年代から運用されてきた旧システム「MyIMMs(Malaysian Immigration System)」を置き換える。
- ●移民局長ザカリア・シャアバン氏は、2026年5月28日のMyIMMs大規模障害を受け(5月29日報道)、「MyIMMsはすでに30年が経過しており、問題が起きるのは避けられない」と述べている。
- ●通関方法は①顔認証、②MyNIISeアプリで生成するQRコード、③従来通りのパスポート、の3方式。内務大臣サイフディン・ナスティオン・イスマイル氏は2026年5月5日、KLIAでの視察後の記者会見で、通関処理を4〜5秒で完了できるとしたうえで、本システムを「ゲームチェンジャー」と表現した。
- ●投資額は約10億リンギ(約2.55億米ドル)。最終的には空港・海港・陸路の国内125の出入国ポイントをカバーする計画。
導入は段階的に進行中 ― 2026年7月時点で確認できる状況
以下は本記事執筆時点(2026年9月1日)で公表が確認できる最新情報で、拠点の一覧は2026年7月上旬時点のもの。9月の全面実施にあわせて対応拠点はさらに増える見通し。
- ●試験導入は2025年9月22日、ジョホール州の陸路2施設(スルタン・イスカンダル・コンプレックス=BSI、スルタン・アブ・バカール・コンプレックス=KSAB)で開始し、2026年2月28日まで実施された。この試験段階ではQRコードによる入国対応は63カ国、出国対応は71カ国と、入出国で対象国数が異なっていた。
- ●2026年3月からは主要空港へ拡大し、テスト・調整が行われた。
- ●2026年7月5日時点でMyNIISeが利用可能な拠点は、空港がKLIA第1・第2ターミナル、ペナン(バヤンレパス)、ジョホールのスナイ空港、クチン空港。陸路がBSI・KSAB(いずれもジョホール)、ICQS Bukit Bunga(クランタン州)。海路がプトゥリ・ハーバー・フェリーターミナル(ジョホール)。
- ●利用実績として、内務大臣は2026年6月28日時点の公式発表で、ジョホールの主要2施設(BSI・KSAB)だけで累計QRコード取引が1,948万件、MyNIISeアプリのダウンロード数が240万件、登録ユーザー数が127万人に達したと明らかにした。同期間に国内5つの主要空港でも559万件以上のMyNIISe取引が記録されたという。
「9月に全面実施」の中身 ― 自動ゲート本体の設置は2028年まで続く
- ●移民局長ザカリア・シャアバン氏は2025年12月23日、2028年までに635基の自動ゲートを国内125の出入国ポイントに設置する計画を発表した。同時点で稼働中のゲートは75基(内訳:スルタン・イスカンダル・コンプレックス36基、スルタン・アブ・バカール・コンプレックス24基、スンガイ・トゥジョー出入国審査場6基、KLIA第1・第2ターミナル9基)。
- ●対象となる利用者は、マレーシア国民、日本を含む63の低リスク国からの訪問者、対象となる長期滞在パス保有者、外交官とその家族。
- ●つまり「2026年9月に全面実施」という政府目標がどこまでを指すのかは、出典によって説明が分かれている。政府は9月の全面実施を掲げる一方、The Vibes(2025年12月)は全国展開の期間を2025年10月〜2028年8月と伝え、Malay Mail(2026年5月)は「NIISeがMyIMMsを置き換えるのは2028年までの予定」と報じている。移民局長も同月「NIISeの準備が整うまでは耐えるしかない」と述べており、9月以降も空港ごと・チェックポイントごとに対応状況の差が当面残ると見ておくのが安全だ。
移行期のトラブルに注意 ― 旧システムの障害が相次いでいる
- ●旧システムMyIMMsは、置き換え完了前の移行期にも障害を起こしている。2026年4月23日には約2時間、全国の入出国処理が停止した。
- ●2026年5月28日には再び大規模障害が発生。移民局長ザカリア氏の説明では障害は同日午前5時から8時45分まで続いたとされる一方、地元紙The Starは全コンピュータシステムが午前4時30分から9時30分までの5時間停止したと報じており、両者の時間帯には幅がある(利用者からも午前4時30分から足止めされたとの声が出ていた)。マレーシア国内の入出国ポイント計114カ所(海路56・陸路30・空路28)のうち大半に影響が及び、自動ゲートだけでなく顔認証システムも停止し、職員が手作業での通関対応にあたった。これは1カ月余りで2回目の大規模障害だった。
- ●ザカリア局長は「システムはハッキングされたわけではない」としたうえで、「MyIMMsは老朽化しており、同様の問題が今後も起きないとは保証できない」と述べている。
- ●内務大臣は2026年5月上旬、ジョホール・バル~シンガポール間のRTS Link(2027年開業予定)の稼働開始に備え、MyNIISeのベンダーに障害対応計画の準備を指示したことも明らかにしている。
在住・訪問日本人が知っておきたいポイント
- ●現時点でMyNIISeアプリのダウンロード・利用は義務ではない。移民局長は2026年1月14日、パスポートでの通関や有人カウンターも引き続き利用可能であると明言している。
- ●MyNIISeは出入国管理システムそのものであり、渡航前に申告する「MDAC(マレーシア・デジタル到着カード)」とは別の仕組み。日本からの訪問者は引き続きMDACの事前登録が必要で、移民局の自動ゲート適格性の案内では「到着の3日前までに提出」(マレーシア永住権保有者と長期滞在パス保有者は免除)とされている。自分が自動ゲートを使えるかは、移民局MDACポータルの「Check Egate Eligibility Status」で渡航前に確認できる。
- ●長期滞在パス(MM2H・雇用パスなど)の保有者は、パスが有効な間はMDAC申告が免除され、自動ゲート利用の対象になるとされる。
- ●初めてマレーシアに入国する際は、顔認証用の生体データがまだ登録されていないため、自動ゲートではなく有人カウンターでの手続きが必要になる。
- ●自動ゲートを通ると、パスポートチップ・QRコード・顔認証のいずれで通関しても入出国スタンプは押されない。転職やパスの更新で入出国日の証明を求められることがある長期滞在者は、記録が必要な場面では有人カウンターを選んでおくほうが安全とされる。
- ●移行期はシステム障害の可能性が残るとされているため、乗り継ぎ時間には余裕を持たせておくのが無難。
参考:
- ●Portal Rasmi Jabatan Penerangan Malaysia(マレーシア政府広報庁公式サイト)「PELAKSANAAN SEPENUHNYA MYNIISE PADA SEPTEMBER 2026」2026年5月6日(原典はBernama 2026年5月5日配信)
- ●Free Malaysia Today(バハサ版)「Kerajaan mahu pastikan MyNIISe lancar usai beroperasi September」2026年5月5日
- ●Malay Mail「Border chaos as ageing immigration system crashes again, stranding thousands around Malaysia」2026年5月29日
- ●Business Standard「Malaysia to launch fast-track biometric immigration from Sept 2026: Details」2026年5月18日
- ●The Vibes「Immigration DG: Malaysia to install 635 automated gates by 2028 to streamline border processing」2025年12月23日
- ●The Iskandarian「MYNIISe: 19.48 million QR transactions recorded by BSI and KSAB as of June」2026年7月6日
- ●ExpatDen「Malaysia's New Biometric Border System (MyNIISe): What Changes for Expats at the Airport」
- ●mtown.my「マレーシア、新入国管理システムNIISeを試験導入」2025年9月22日
- ●winrayland.com「国内越来越多出入境关卡支持MyNIISe系统了」2026年7月5日
- ●cham(lifestylinglog.com)「MyNIISe|QRコードでマレーシア出入国がより簡単に!マイニース登録方法解説」
- ●SoyaCincau「MyNIISe and MyDigital ID not compulsory to clear immigration, autogate still accepts physical passport」2026年1月14日(https://soyacincau.com/2026/01/14/myniise-and-mydigital-id-not-compulsory-to-clear-immigration-autogate-still-accepts-physical-passport/)
- ●マレーシア移民局 MDAC eGate適格性公式ページ(imigresen-online.imi.gov.my/mdac/egate)
情報は2026年9月1日時点。制度の詳細は変更される場合があるため、渡航・滞在の際は公式発表を確認してほしい。