マレーシアで段階導入が進む電子インボイス(e-Invoice/MyInvois)制度に、在住日本人の個人事業主・小規模法人にとって朗報となる方針転換がありました。政府は義務化の免除ラインを年間売上高RM50万未満からRM100万未満へ引き上げ、当初2026年7月1日に予定されていた「最後の導入フェーズ(売上RM50万〜100万の事業者)」を撤回しました。この結果、年間売上高RM100万未満の事業者は、原則として電子インボイスの義務化対象から外れることになりました。
マレーシアで小規模なコンサルティングや物販、飲食などの事業を営む在住日本人にとって、事務・システム対応の負担が大きく減る内容です。本記事では、決定の中身と、免除される側が実務で押さえておくべき点を整理します。
何が決まったのか
- ●免除の基準額が引き上げられた—これまで義務化を免除されるのは年間売上高RM50万未満の事業者だったが、その線引きがRM100万未満に引き上げられた(2025年12月に改訂ガイドライン公表、2026年1月1日から適用)。
- ●2026年7月1日の導入予定が撤回された—もともと、売上RM50万〜100万の層は2026年7月1日から電子インボイスが義務化される「第5波(最終フェーズ)」の対象とされていた。今回の基準額引き上げにより、この第5波そのものが取りやめとなった。
- ●RM100万未満は「任意」に—義務ではなくなったため、RM100万未満の事業者は電子インボイスを導入してもしなくてもよい(任意導入は引き続き可能)。
マレーシア内国歳入庁(IRBM/LHDN)は2025年12月に改訂ガイドラインを公表しており、複数の税務専門会社が「第5波はキャンセル、RM100万未満は免除」と一致して報じています。
義務化の対象は「大きい事業者」から段階導入
電子インボイスは、売上規模の大きい事業者から順に義務化されてきました。今回免除ラインが上がったことで、現在の義務化スケジュールはおおむね次の通りです。
- ●年間売上高RM1億超:2024年8月1日から(実施済み)
- ●RM2,500万〜1億:2025年1月1日から(実施済み)
- ●RM500万〜2,500万:2025年7月1日から(実施済み)
- ●RM100万〜500万:2026年1月1日から
- ●RM100万未満:義務化免除(任意)
つまり、義務化の「一番下のライン」がRM100万に固定され、それより小さい事業者は当面対象外という形になりました。
免除されても知っておきたい実務ポイント
売上RM100万未満で義務化の対象外になっても、取引相手や事業内容によっては電子インボイスと無縁ではいられません。次の点は押さえておきましょう。
- ●グループ会社・関連事業体には例外がある—免除は「単純にRM100万未満なら誰でも」ではありません。持株会社の子会社や、非個人株主を持つ事業者など一定の関連事業体は、RM100万の基準の考え方が個別に適用され、義務化対象となるケースがあります。日系企業の現地子会社などは、単体の売上規模だけで判断せず確認が必要です。
- ●取引先が義務化対象の場合—あなたが免除対象でも、仕入れ・外注先や販売先が義務化対象の大企業だと、相手側の仕組みの中で「セルフビリング(自己請求書方式)」などの形で電子インボイスのやり取りが発生することがある。取引先から必要書類や登録情報(TIN等)を求められる場面は起こり得る。
- ●任意導入という選択肢—法人取引が多い場合、自主的に電子インボイスを導入しておくと相手方の経理処理がスムーズになるケースもある。義務ではないので、事業規模と取引先の状況を見て判断すればよい。
- ●売上が伸びたら対象になり得る—あくまで「RM100万未満」という基準による免除。事業が成長して基準を超えれば、将来的に義務化対象へ移る点は意識しておきたい。
まとめ
- ●マレーシア政府は電子インボイスの免除基準をRM50万未満→RM100万未満へ引き上げ、2026年7月1日に予定されていた小規模事業者向けの義務化(第5波)を撤回した。
- ●これにより、年間売上高RM100万未満の在住日本人の個人事業主・小規模法人は、原則として電子インボイスの義務化対象から外れた。
- ●ただし、持株会社の子会社などの関連事業体には例外があり、また取引先が義務化対象の場合は書類のやり取りが発生し得る。免除=すべてのケースで完全に無関係、というわけではない点に注意。
制度は運用の細部が変わることがあります。自身の事業が該当するか、取引先との関係でどう対応すべきかは、会計士・税務コンサルタントやLHDNの最新ガイドラインで確認することをおすすめします。
参考(2026年7月時点): Sovos(グローバル税務コンプライアンス、2025-12-08)/ClearTax Malaysia(2026-01-05更新)/Grant Thornton Malaysia タックスアラート(2025-12-15)/ジェトロ ビジネス短信(2025-06-09、撤回前の当初スケジュールの裏付け)