マレーシアで働く外国人の就労ビザ(Employment Pass、EP)をめぐって、2026年7月末に運用変更が伝えられました。EP申請の前に「まず地元の人材を募集したか」を確認する労働市場テスト(LMT)について、これを免除される給与ラインが月額RM15,000からRM20,000へ引き上げられる、という内容です。

在住日本人にとっては、転職や新規赴任のときに「EP申請までの手間と時間が増えるかもしれない」という話になります。ただし後述するとおり、この記事の時点で正式な文書は公表されていません。まずは何が伝えられ、何がまだ確定していないのかを整理します。

何が伝えられたのか

  • 2026年7月29日、マレーシアの社会保障機構(PERKESO/SOCSO)がオンライン説明会で、LMTの免除基準額を月額RM15,000からRM20,000へ引き上げる方針を伝えた(Erickson Immigration Group、Tafapolsky & Smith LLP)
  • 対象となるのは基本給のみで、各種手当やその他の福利厚生は含まれない(Tafapolsky & Smith LLP)
  • これまでは基本給が月額RM15,000以上であればLMTが免除されていた。変更後は、基本給が月額RM20,000を下回る場合、EP申請を提出する前にLMTを実施する必要があるとされる(Erickson Immigration Group、Tafapolsky & Smith LLP)
  • つまり、月額RM15,000〜RM19,999の層が新たにLMTの対象に入る(Erickson Immigration Group)
  • この変更は、2026年6月1日に施行されたEPの最低給与基準の見直しと足並みをそろえるものとされている(各出典共通)

なお、変更の適用時期については出典によって記述が分かれています。VisasUpdateは2026年8月7日付の記事で「2026年8月7日から適用」と報じていますが、Erickson Immigration GroupとTafapolsky & Smith LLPは、これを説明会で示された方針・見込みとして扱い、正式決定として扱っていません。

そもそも「労働市場テスト(LMT)」とは

LMTは、外国人を雇う前に「同じ仕事ができる地元の人材がいないか」を実際に確かめる手続きです。マレーシアでは、人的資源省の傘下にあるPERKESO(社会保障機構)が運営する国の求人ポータルMyFutureJobsに求人を掲載し、応募してきた地元候補者の面接を行ったうえで、それでも採用に至らなかった場合にEP申請へ進む、という流れになります(VisasUpdate)。

雇用主が行う手続きなので、働く側が自分で何かを申請するわけではありません。ただし実務上は、内定から就労開始までのリードタイムが延びる要因になります。なお、今回の変更がPERKESOから伝えられたのは、このMyFutureJobsの運営主体がPERKESOだからです。

影響を受けやすいのは誰か

最も直接的に影響を受けるのは、EPカテゴリーIIに該当する層です(VisasUpdate)。

2026年6月1日施行のEP区分は、日本貿易振興機構(ジェトロ)が2026年1月29日に報じた内容によると次のとおりです(区分が6月1日から実施されたことは、入国管理局外国人サービス部門(ESD)の2026年4月30日付告知でも確認できます)。

  • カテゴリーI月額2万リンギ以上/通算の最長雇用期間は10年
  • カテゴリーII月額1万〜1万9,999リンギ/通算10年(地元人材への承継計画が条件)
  • カテゴリーIII月額5,000〜9,999リンギ(製造業・製造関連サービス業は7,000〜9,999リンギ)/通算5年(承継計画が条件)

カテゴリーIIの上限側、つまり月額RM15,000〜RM19,999で働く人・採用される人が、今回の変更で新たにLMTの対象範囲に入ることになります。日系企業の現地採用や中堅ポジションの転職では、この給与帯に当たるケースは珍しくありません。

免除が続くとされるケース

説明会では、既存の免除カテゴリーそのものへの変更は示されなかったと報じられています(Erickson Immigration Group)。免除が引き続き適用されるとされるのは次のような場合です(Tafapolsky & Smith LLP、VisasUpdate)。

  • EPの更新(更新申請)
  • 企業内転勤(intra-company transfer)
  • 上級管理職(senior management)
  • 株式の30%以上を保有する株主(Tafapolsky & Smith LLP)
  • 投資家・オーナー
  • RERO(Regional Establishment/Representative Office)に関わる職位
  • 国際機関の職位
  • スポーツ分野の職位
  • 同一企業内での職位変更(Erickson Immigration Group)

すでにマレーシアで働いていてEPを更新するだけの人は、この免除に該当します。今回の変更で影響が大きいのは、新規申請、つまりこれから赴任する人や現地で転職する人です。

注意: 正式な文書はまだ公表されていない

この件で最も重要な留保です。

  • Erickson Immigration Groupは「これまでのところ、この変更についての公式な文書による発表はない」と記しており、内容はオンライン説明会で口頭により伝えられたものだとしています
  • Tafapolsky & Smith LLPは、PERKESO/SOCSOからのFAQの更新と正式発表を待つべきであり、今回の説明会の内容は確定した政策というより見込まれる変更である、という位置づけで伝えています
  • Asanifyの2026年8月11日付のまとめでも、正式なFAQはその時点でなお保留中であるとされ、「申請の前に、内務省とESDが公表するFAQを決定的な参照先として扱うこと」と注意を促しています

したがって、現時点では「そういう方針が説明会で示された」という段階であり、細かい運用(適用開始日、経過措置の有無、掲載期間などの実務要件)は正式文書の公表を待つ必要があります。

在住日本人が今できること

  • 転職・新規赴任を検討している人内定から就労開始までのスケジュールに、LMTの分の余裕を見ておく。雇用主側の手続きなので、採用担当者やビザ手続きを委託している事務所に「LMTが必要な給与帯かどうか」を早めに確認しておくと安全です
  • すでにEPを保有していて更新するだけの人現時点の報道では更新は免除対象とされています。ただし正式文書で変わる可能性はゼロではないため、更新時期が近い場合は雇用主経由で最新の運用を確認してください
  • 基本給と手当の内訳を把握しておく判定に使われるのは基本給のみで、手当は含まれないとされています。総支給額では基準を超えていても、基本給では下回るケースがあり得ます
  • 一次情報を待つ確定的な情報源は、内務省および入国管理局外国人サービス部門(ESD)、PERKESOが公表するFAQ・正式発表です

参考: Erickson Immigration Group(2026年8月7日)、Tafapolsky & Smith LLP(2026年7月30日)、VisasUpdate(2026年8月7日)、Asanify(2026年8月11日)、日本貿易振興機構(ジェトロ)ビジネス短信(2026年1月29日)。

本記事は2026年8月14日時点の情報にもとづきます。労働市場テストの免除基準額の引き上げは、2026年7月29日のPERKESO/SOCSOによるオンライン説明会で伝えられたもので、本記事の時点で正式な文書による発表・FAQの更新は確認されていません。実際の申請にあたっては、内務省・ESD・PERKESOの公式発表を必ずご確認ください。