2026年8月に入り、マレーシアで越境ヘイズ(煙害)が本格化しています。8月9日午後6時時点で、サラワク州の8地点とセランゴール州の1地点が大気汚染指数(API)の「不健康(Unhealthy)」水準を記録しました。ASEAN気象専門センター(ASMC)は8月3日、ASEAN南部地域の警戒レベルを「レベル2」に引き上げています。在住日本人が知っておきたい現状・学校の運用ルール・家庭でできる対策をまとめます。
いま何が起きているか — 8月8〜9日のAPI実測値
大気汚染の悪化はサラワク州を中心に進んでいます。数値は時間帯ごとに変動するため、報道各社が記録した測定時刻別の実測値を並べます。
8月8日 午前8時時点(Free Malaysia Today)— サラワク州の5地点が「不健康」
- ●スリアン(Serian): 171
- ●クチン(Kuching): 154
- ●サマラハン(Samarahan): 154
- ●スリ・アマン(Sri Aman): 139
- ●ビントゥル(Bintulu): 124
8月9日 午前8時時点(Bernama / Malay Mail)— 同じく5地点が「不健康」
- ●スリアン: 170
- ●サマラハン: 156
- ●ビントゥル: 156
- ●クチン: 153
- ●サマラジュ(Samalaju): 151
8月9日 午後6時時点(Free Malaysia Today、24時間平均)— サラワク州8地点+セランゴール州1地点に拡大(数値の高い順)
- ●スリアン: 169
- ●サマラハン: 157
- ●クチン: 156
- ●ビントゥル: 154
- ●スリ・アマン: 154
- ●ジョハン・スティア(Johan Setia、セランゴール州): 153
- ●サマラジュ: 152
- ●サリケイ(Sarikei): 152
- ●ミリ(Miri): 119
同じ時点で、そのほか57地点は「中程度(moderate)」の水準にとどまっています。つまり現段階では、深刻な悪化はサラワク州に集中しており、半島部で「不健康」を記録したのはセランゴール州のジョハン・スティア1地点のみです。
煙はどこから来ているのか
ASEAN気象専門センター(ASMC)の観測によると、煙の主な発生源はインドネシア・カリマンタン(ボルネオ島インドネシア領)の森林・土地火災です。
8月8日時点のホットスポット(火点)検出数は次の通りです(ASMC、Free Malaysia Today報道)。
- ●カリマンタン: 643件
- ●スマトラ: 17件
- ●マレーシア国内: 25件(うちサラワク州22件、セランゴール州1件、トレンガヌ州1件)
ASMCは、西カリマンタンで「中程度から濃密な煙の帯」が観測され、北方向へ移動してサラワク州西部に入り込んでいると報告しています。
マレーシア気象局(MetMalaysia)は、南寄りの風と近隣諸国での多数のホットスポット発生が組み合わさることで越境ヘイズを引き起こす可能性があると警告し、サラワク州を含むボルネオ島の大部分で8月14日まで高温・少雨の天候が続くと予報しています。
ASEANが8月3日に「警戒レベル2」を発動
ASMCは2026年8月3日付で、ASEAN南部地域(マレーシア・シンガポール・インドネシア・ブルネイ等)の警戒レベルをレベル2に引き上げました(ASEAN北部地域は2025年12月26日付のレベル1が継続)。
ASMCの警戒レベルの定義は次の通りです。
- ●レベル0—越境煙害なし(平常)
- ●レベル1—乾季
- ●レベル2—域内で越境ヘイズのリスクが高まっている状態(ホットスポット活動の拡大、乾燥天候の継続、煙が近隣国へ流れる風向)
- ●レベル3—域内で深刻な越境ヘイズが発生する高いリスク(顕著かつ持続的なホットスポット活動と、広範囲の中〜濃密な煙害)
今回のレベル2発動にあたり、ASMCはカリマンタンとスマトラのホットスポット群から中程度の煙害が検出されていること、エルニーニョの強まりとともに乾燥状態が続く見込みであることを理由に挙げています。
背景として、Bloombergは8月4日、米国の予報機関の見立てとして今回のエルニーニョが「過去75年以上で最も強い部類のひとつ」になる可能性があると報じています。ASMCの季節予報でも、2026年8〜10月はASEAN南部地域で平年を下回る降水量、平年を上回る気温が見込まれています。
APIの読み方とリアルタイム確認の方法
マレーシアのAPI(Air Pollutant Index、大気汚染指数)の区分は次の通りです。
- ●0〜50—良好(Good)
- ●51〜100—中程度(Moderate)
- ●101〜200—不健康(Unhealthy)
- ●201〜300—非常に不健康(Very Unhealthy)
- ●301以上—危険(Hazardous)
リアルタイムの数値は、環境局(DOE)が運営する公式サイト APIMS(apims.doe.gov.my) で地点ごとに確認できます。保健省(MOH)も、ヘイズ発生時はこのサイトで居住地域の数値を確認するよう案内しています。
住んでいる街の数値を毎朝チェックする習慣をつけておくと、その日の外出・運動・洗濯物の判断がしやすくなります。
学校はどうなるのか — 100と200が分かれ目
お子さんを現地校・インター校に通わせている家庭にとって重要なのが、API連動の運用ルールです。環境局が示す基準は次の通りです(Free Malaysia Today、2026年8月8日報道)。
- ●APIが100を超えた場合—学校は屋外での活動をすべて中止する
- ●APIが200に達した場合—学校および就学前教育施設(幼稚園・保育所)は休校・休園とする
- ●APIが150を超える状態が24時間以上続いた場合—人工降雨(クラウドシーディング)の実施が発動される
教育省のヘイズ対応ガイドラインでも、API 100超で屋外活動の停止、200超で休校(オンライン学習へ切り替え)という同様の枠組みが従来から示されています。
今回の局面でのサラワク州の最高値は8月8日午前8時のスリアン171、直近の8月9日午後6時時点でもスリアンが169で最も高くなっています。いずれも休校ラインの200には達していません。ただし100は大きく超えているため、屋外体育・課外活動が中止される地域が出ることは十分に想定されます。学校からの連絡を注視してください。
サラワク州政府の対応と住民への呼びかけ
サラワク州災害管理委員会(SDMC)委員長を務めるサラワク州副首相(Deputy Premier)のダグラス・ウガ・エンバス氏(Datuk Amar Douglas Uggah Embas)は8月8日、越境ヘイズが今後数日でサラワク州内の19地域に影響する見通しだと述べました。
対象として挙げられたのは、ベトン(Betong)、ビントゥル(Bintulu)、ダロ(Daro)、ジュラウ(Julau)、カノウィット(Kanowit)、クチン(Kuching)、ルンドゥ(Lundu)、マルディ(Marudi)、ミリ(Miri)、ムカ(Mukah)、パカン(Pakan)、サマラハン(Samarahan)、サラトク(Saratok)、スリアン(Serian)、シブ(Sibu)、シムンジャン(Simunjan)、ソン(Song)、スリ・アマン(Sri Aman)、タタウ(Tatau)の19地域です。
マレーシア気象局のヘイズ移動予報に基づき、8日はミリとスリアン、9日はベトンでPM2.5濃度が「不健康」水準になると見込まれていました。
住民への呼びかけとして、州政府は次の点を挙げています。
- ●大気の状態が悪化しているときは屋外活動、特に激しい運動を控える
- ●ヘイズが濃いときはドアと窓を閉める
- ●屋外ではマスクを着用する。特に子ども、高齢者、呼吸器疾患のある人
- ●呼吸が苦しい、胸に違和感があるといった症状が出たら医療機関を受診する
家庭でできる対策 — 保健省の公式アドバイス
マレーシア保健省(MOH)の健康教育部門がヘイズ発生時の指針として公開している内容の要点です。
注意が必要な人
- ●子ども
- ●高齢者
- ●呼吸器・心疾患のある人(喘息、気管支炎、肺炎、慢性肺疾患、心臓病、アレルギー)
- ●喫煙者
- ●屋外労働者
出やすい症状
- ●のどのイガイガ、咳
- ●息苦しさ、呼吸困難
- ●目の刺激感、涙が出る
- ●鼻水、くしゃみが頻繁に出る
- ●皮膚のかゆみ
- ●胸の痛み
症状が悪化する場合は医療機関を受診するよう案内されています。
推奨される行動
- ●バイク利用者、屋外労働者、高リスク者はマスク(鼻と口を覆うもの)を着用する
- ●できるだけ屋内で過ごし、屋外活動やスポーツを控える
- ●水分を十分に取る(1日8杯以上が目安として示されています)
- ●露出した肌や顔をきれいな水でこまめに洗う
- ●車内ではエアコンを使用する
- ●危険な水準に達した場合、高リスク者は影響地域を離れることも検討する
マスクの種類の選び方には注意が必要です。保健省は「Usage Of Personal Protection During Haze」で、N95は微粒子を捕集できる一方、妊婦と子どもには適さないと明記しています。また装着すると呼吸の負担が増えるため、息苦しさ・倦怠感・頭痛が出ることがあり、慢性の肺疾患・心疾患がある人は苦しさを感じたら着用をやめて医師に相談するよう案内されています。ひげや長い髪が密着を妨げると効果が落ちる点も指摘されています。購入前に同ページを確認してください。
在住者の実務的な備えとしては、空気清浄機のフィルター残量の確認、マスクの買い置き、車のエアコンの内気循環設定の確認あたりが、ヘイズ本格化の前に済ませておきたいところです。
野焼きは重い罰則の対象
ヘイズの悪化局面では、当局が国内の野焼き(open burning)取り締まりを強化します。庭木や落ち葉を燃やす行為も対象になり得るため、注意が必要です。
- ●サラワク州—州の天然資源環境条例(Cap.84)第30条に基づき、最高RM10万の罰金もしくは5年以下の禁錮、またはその併科。不審な野焼きは天然資源環境局(NREB)へ通報(082-447488 / 082-319500)
- ●連邦法(環境質法1974、2024年改正)—第29A条違反はRM2万5,000以上RM100万以下の罰金、または5年以下の禁錮、あるいはその併科。違反が継続する場合は1日あたりRM5,000以下の追加罰金
今後の見通し
- ●MetMalaysiaは、サラワク州を含むボルネオ島の大部分で8月14日まで高温・少雨が続くと予報しており、少なくともそれまでは状況が自然に改善する見込みは薄いといえます
- ●ASMCの季節予報では、2026年8〜10月にかけてASEAN南部地域で平年を下回る降水量となる可能性が高まると見込まれています。エルニーニョは今後数か月さらに強まる見通しです
- ●現時点で半島部(クアラルンプール、セランゴール、ジョホール、ペナン等)の大半は「中程度」水準にとどまっていますが、風向きが変われば状況は変わります。APIMSでの日々の確認が最も確実です
参考: Free Malaysia Today(2026年8月8日・8月9日)、Malay Mail / Bernama(2026年8月9日)、Sarawak Tribune(2026年8月8日)、The Star(2026年8月8日・8月9日)、ASEAN気象専門センター(ASMC)公式サイト「ASMC Alerts」、マレーシア保健省(MOH)健康教育部門「Jerebu」「Usage Of Personal Protection During Haze」、マレーシア環境局(DOE)APIMS、Bloomberg(2026年8月4日)。
注記: 本記事のAPI数値はすべて測定時刻を明示した各社報道時点のものです。APIは1時間ごとに更新されるため、実際の判断は必ず apims.doe.gov.my の最新値で行ってください。情報は2026年8月9日時点のものです。