3行でわかる今回のニュース
- ●2026年8月4日、マレーシアの上院(Dewan Negara)で、ジョハリ・アブドゥル・ガニ投資貿易産業大臣が「販売されるEV1台ごとに課徴金(levy)を課し、その収入を公共充電ステーション建設のための専用基金に充てる可能性」を検討していると述べた。
- ●翌8月5日、同大臣は「一般消費者に課すと言ったわけではない。最も適切な仕組みを検討している段階だ」と補足した。一方で「メーカーに課せば、最終的には消費者に転嫁される」とも認めている。
- ●金額・開始時期・誰が負担するのかは、いずれも決まっていない。EV購入を検討している在住者にとっては「まだ確定情報ではないが、コスト増の方向で議論が始まった」という段階だ。
上院での発言 ―「メーカーや販売業者だけに頼ることはできない」
発言があったのは2026年8月4日、上院での口頭質疑。ジョハリ・アブドゥル・ガニ投資貿易産業大臣(MITI)は、公共充電インフラの財源についてこう述べた。
販売されるEV1台ごとに課徴金を課し、その収入を公共充電ステーション建設のための専用基金に充てる可能性がある。自動車メーカーや販売業者だけに、こうした投資を頼ることはできない。
同大臣は、中国で見られるような規模の全国的な充電網を、専用の財源なしに整備することはできないとも説明している。
背景1: 4年間の免税で33億リンギを失ったが、充電器への投資は来なかった
政府がこの構想に傾く理由として挙げたのが、完成車輸入(CBU)EVに対する4年間の優遇措置の結果だ。
- ●対象となった税: 輸入関税・物品税・売上税
- ●政府が失った税収: 33億リンギ(4年間の累計)
大臣はこう振り返っている。
4年が経って公共充電ステーションの整備状況を見たとき、EV業界側からの投資はまったく無かった。
このためCBU(完成車輸入)EVへの優遇は終了し、現在は国内組立(CKD)EVへの免税措置のみが2027年12月31日まで延長されている。今後の優遇は、部品を海外から持ち込んで組み立てるだけでなく、国内のサプライチェーンに実際に関与する企業を優先する方針も示された。
背景2: 充電器は6,416基 ― 2025年の「1万基」目標は未達だった
充電インフラの整備状況について、MITIが下院で示した数字は次の通り。
| 時点 | 公共充電器の数 | 内訳 |
|---|---|---|
| 2025年12月31日 | 5,624基 | うちDC急速 1,923基(34%) |
| 2026年5月31日 | 6,416基 | DC急速 2,143基 / AC 4,273基 |
- ●政府はかつて2025年末までに1万基という目標を掲げていたが、達成できなかった。
- ●現在の目標は2030年までに3万基に置き換わっている。
なお、8月4日の上院答弁では大臣自身が「公共充電ポイントは現在1,000基強」とも述べており、この6,416基と大きく食い違う。本記事は、AC・DCの内訳まで示されたMITIの下院答弁(6,416基)を採った。現地のライセンス済み充電ポイントを積み上げた集計(約6,363基)や2026年8月12日付のThe Edge Malaysiaの報道も6,416基を用いており、こちらが政府の公式集計とみられる。食い違いの理由は公表されていない。
つまり「4年後に3倍以上」という目標を、財源の裏付けなしに抱えている状態で、その財源として浮上したのが今回の課徴金構想という構図だ。
翌日の補足 ―「一般消費者に課すと言ったわけではない」
報道が広がった翌日の8月5日、クアラルンプールで開かれたRHB Progress Series 2026の会議で、大臣は次のように補足した。
提案中のEV課徴金を一般消費者に課すと言ったわけではない。最も適切な仕組みを、まだ検討している。
ただし、負担の行き先については踏み込んだ発言もしている。
メーカーに課せば、最終的にはそのコストは消費者に転嫁される。
さらに政府の財政事情にも触れ、「政府は財政赤字下にある。赤字の中で、どうやって財源を確保するのか」と述べた。
要するに、「購入者に直接課すか、メーカー経由にするか」は未定だが、どちらにしてもEVの実売価格に影響しうるというのが、現時点で読み取れる範囲だ。
コンドミニアム住まいの在住者には、他人事ではない話
今回の質疑で大臣が「最大の課題」として挙げたのは、公共充電インフラの不足そのものだった。そのうえで、とりわけ影響が大きい層として、自宅に充電器を設置できない集合住宅の住民と、政府の低所得者向け公共住宅(PPR)の住民を挙げている。
クアラルンプール近郊でコンドミニアムに住む日本人在住者にとっては、まさにこの層に当てはまる。戸建てのように駐車場へ自宅充電器を引くことが難しく、公共充電器の数と稼働状況に依存せざるを得ない。政府側もその点を課題として認識している、というのが今回の発言から確認できる点だ。
2026年からEVにも道路税がかかっている
今回の課徴金構想とは別に、EVを取り巻くコストは2026年に入ってすでに一段変わっている。
- ●2022年1月1日〜2025年12月31日: EVは道路税が免除
- ●2026年1月1日以降: モーターの出力(kW)に応じた年額課税に移行
実際に販売されているモデルの年額は20リンギ〜4,890リンギ(20リンギは出力50kW以下、4,890リンギは675kWのロータス級)。税率表には出力1,010kW超に一律2万リンギの区分もあるが、該当する市販モデルは事実上存在しない。
市場は伸びている ― だから財源の議論が出てきた
課徴金の議論が出てきた背景には、EVの販売そのものが急拡大している事実もある。マレーシア道路交通局(JPJ)の登録データをもとにした現地報道によると、
- ●2026年上半期のEV新規登録: 31,738台(前年同期比 +85%)
- ●2026年7月の単月EV登録: 6,937台。同月の新車登録全体80,030台の8.67%
- ●2026年1〜7月の累計: 38,675台(前年同期比 +94.0%)、年初来のシェアは7.90%
新車の10台に1台近くがEVという水準に近づいており、充電器の整備ペースが追いついていないという構図が、政府の発言と数字の両方から見て取れる。
在住日本人が押さえておくべき3点
- 1まだ決定事項ではない。 金額・開始時期・課税対象(購入者かメーカーか)はすべて未定で、大臣自身が「最も適切な仕組みをまだ検討している」と述べている。「EVが値上がりする」と確定したわけではない。
- 2公表されているのは「販売されるEV1台ごと」という構想。 現時点の報道では、すでに保有しているEVへの課税には言及がない。
- 3自宅充電の可否を先に確認する。 コンドミニアム住まいの場合、管理側が充電器設置を認めているかどうかが実際の使い勝手を左右する。政府自身が公共充電インフラの不足を「最大の課題」と認め、集合住宅の住民をとりわけ影響の大きい層に挙げている状況で、公共充電器は2030年目標の3万基に対してまだ6,416基(2026年5月末)にとどまる。
今後の注目点
課徴金の具体的な仕組みは、今後の政府発表や予算関連の文書で明らかになる可能性がある。EVの購入を検討している場合は、車両価格そのものだけでなく、道路税(2026年から課税済み)と、この課徴金の行方の両方を見ておきたい。
参考: Bernama、BernamaBiz(2026年8月4日・8月5日)、Free Malaysia Today(2026年8月4日)、paultan.org(2026年8月4日・8月5日、および2026年1月7日・7月9日・7月13日)、SoyaCincau(2026年7月8日・8月9日)、The Edge Malaysia(2026年8月12日)、asiainfonet.com(2026年8月5日)。大臣の日本語表記はジェトロ「ビジネス短信」(2025年12月22日)に準拠(経済産業省プレスリリース〈2026年6月9日〉は「ジョハリ投資貿易産業大臣」と略記)。情報は2026年8月12日時点。政策は検討段階であり、今後変更される可能性があります。