マレーシア政府が2026年8月10日(月)、住宅分野の10年計画「国家住宅政策(Dasar Perumahan Negara、略称DRN)2026-2035」を発表した。2035年までに低価格住宅100万戸の供給を掲げるとともに、これまで個々の契約に委ねられてきた賃貸市場のルール整備の方向性も盛り込まれた。マレーシアで賃貸住宅に住む在住日本人も多いことから、今回の発表のポイントを整理する。
何が発表されたか
発表を行ったのは住宅・地方自治体省(KPKT)で、クアラルンプールのKuala Lumpur Golf Country Club Convention Centreで開催された式典で公表された。政策は「6つの重点分野・17の戦略・59の行動計画」で構成される、今後10年間の住宅政策の基本枠組みという位置づけだ。
住宅・地方自治体大臣のNga Kor Ming氏は式典で「質の高い住宅とは、単に住まいを提供することではない。豊かな家庭、調和のとれたコミュニティ、そして持続可能な国家発展の基盤でもある」("Quality housing is not merely about providing shelter; it is also the foundation for building prosperous families, harmonious communities and sustainable national development.")と述べた。
供給のミスマッチ解消に「ビッグデータ」を活用
DRNの柱の一つが、準地区・地区(sub-district/district)単位のデータに基づく住宅計画への転換だ。既存の住宅供給量、空室、住宅タイプ、世帯所得、価格帯などを踏まえて将来の需要を見立て、雇用・交通と連動した公共交通指向型開発(TOD)の調査も進める方針という。あわせて、完成済みだが売れ残っている住宅を賃貸に回すことの実行可能性調査も検討するとしている。
在住者にも関わる「賃貸」の枠組み
購入面では、賃貸購入(Rent-to-Own)、共同所有(シェアード・オーナーシップ)、固定金利ローン、住宅信用保証制度(Skim Jaminan Kredit Perumahan, SJKP)拡充など、従来の一括購入以外の選択肢を広げる方針が示された。
賃貸面では、より「公式な賃貸市場」を作るための枠組みとして、住宅賃貸法(Residential Tenancy Act)の整備、賃貸登録制度、電子賃貸契約(eテナンシー)、登録制度と連動した賃貸支援策が提案されている。
ここは要注意な点として、これらはいずれもDRNという10年計画の中の「提案」段階であり、2026年8月10日時点で新たに施行された法律ではない。住宅賃貸法は2019年1月、前身の国家住宅政策(2018-2025)のもとで初めて提起されたもので、以来たびたび国会提出が取り沙汰されてきた経緯がある(The Edge Malaysia、2026年2月5日)。今回のDRNもその方向性を改めて明文化したものという位置づけになる。現時点で賃貸契約の手続きが直ちに変わるわけではないため、今後の法制化の進捗を注視する必要がある。
「問題物件」を減らす仕組みづくり
Nga氏によれば、KPKTの特別タスクフォースはこれまでに、総額1,530億リンギ(RM1,530億)相当・1,647件の民間の「不調・放棄住宅プロジェクト」を解消し、20万人近くの購入者が恩恵を受けたという。政府は2030年までに放棄プロジェクトをゼロにすることを目標に掲げ、事後対応から予防重視へと方針を転換するとしている。
その具体策の一つが、年内の導入が予定されている「購入オプション(Option to Purchase, OTP)」制度だ。契約締結前に一定期間を設け、販売不振で失敗が見込まれるプロジェクトからは開発者側が撤退できる(その場合、購入者には預託金が全額返金される)一方、購入者側も所定の期間内であれば、所定の事務手数料や利息を条件に契約から離脱できるようにする仕組みという。
このほか、完成後販売(Build Then Sell, BTS)方式の段階的導入、新たな住宅開発業者法(Housing Developers Act)の制定、サンセット条項の導入、既存のストラータ管理法2013(Strata Management Act 2013)改正による、合同管理体(JMB)・管理法人(MC)およびこれらを監督する建築物監督官(COB)の統治・説明責任の強化なども盛り込まれている。
購入前に確認できる新ツール「TEDUH」
KPKTは住宅情報のデジタルポータル「TEDUH(Transforming & Empowering Data Usage in Housing)」の強化も進める。開発業者や販売員からの説明だけに頼らず、購入検討者が自分でプロジェクトの状況を確認できる情報源として位置づけられている。あわせて住宅統合管理システム(HIMS)や電子売買契約、住宅開発口座(Housing Development Account)の定期監査の強化も進めるという。
まとめ
DRN 2026-2035は、住宅の「計画・建設・資金調達・管理」のあり方全体を見直す10年間の方針表明であり、今回の発表だけで賃貸・購入の契約実務がすぐに変わるものではない。ただし、賃貸登録制度や住宅賃貸法の検討が改めて明文化された点、また物件購入前にTEDUHのような公的情報源で確認できる仕組みが強化される点は、マレーシアで住まい探しをする在住日本人にとっても中長期的に関わってくる可能性がある。今後の法制化・具体化の動向は続報で取り上げたい。
参考: EdgeProp.my「Govt launches National Housing Policy 2026–2035, targets one million affordable homes by 2035」(2026年8月10日)、Malay Mail「National Housing Policy: What does the policy mean for Malaysians」(2026年8月24日)時点の情報。