「マレーシアで海外からの所得が非課税なのは2026年12月31日まで」——そう書かれた解説は、日本語でも英語でも、いまだにネット上に数多く残っています。2026年8月時点で、その"期限"まで残り4カ月半。日本の年金や不動産収入をマレーシアに送金して暮らしている人ほど、気になる話でしょう。

結論から書くと、個人については、この免税措置はすでに2036年12月31日まで10年間延長されています。2024年10月の予算案で発表され、同年12月に官報で公示済みです。ただし、法人・LLP(有限責任事業組合)は対象によって取り扱いが分かれており、一部はまだ確定していません。ここを混同すると判断を誤ります。

そもそも何の話か——2022年に始まった「送金課税」

マレーシアの所得税は、伝統的に「マレーシア国内で生じた所得」だけを課税対象とする属地主義でした。これが2022年1月1日から変わり、マレーシアの居住者が国外源泉所得(Foreign-Sourced Income、FSI)をマレーシア国内で受け取った場合も課税対象となりました。

英国勅許公認会計士協会(ACCA)の技術解説は、この仕組みを「derivation and remittance scope of charge(源泉地+送金による課税範囲)」と説明し、「マレーシアで受け取ったFSIはマレーシアで課税対象となる」としています。つまり、課税の引き金になるのは海外で稼いだ時点ではなく、その所得をマレーシアに持ち込んだ時点です。

日本の年金、日本に残した不動産の家賃、日本法人からの配当——こうしたものをマレーシアの口座に送金して生活している人にとっては、他人事ではない制度変更でした。

そこで政府は、激変緩和のための免税措置を同時に用意しました。個人向けが Income Tax (Exemption) (No. 5) Order 2022(P.U.(A) 234/2022) です。当初の適用期間は2022年1月1日から2026年12月31日まで——これが「2026年末で終わる」という情報の出どころです。

個人の免税は2036年12月31日まで延長された

その後、この期限は次のように延長されました。

  • 2024年10月18日 — アンワル・イブラヒム首相兼財務相が2025年度予算案(Budget 2025)の演説で、個人の国外源泉所得に対する所得税免除を10年間延長し、2036年12月31日までとすると表明(The Edge Malaysia)
  • 2024年12月24日 — 官報で P.U.(A) 451/2024 として公示。従来の期限である2026年12月31日を2036年12月31日に改める内容で、2027年1月1日から効力を生じる(Bloomberg Tax)

そして現在(2026年8月時点)、PwCが各国税制をまとめている Worldwide Tax Summaries のマレーシア・個人の項(2026年6月16日時点レビュー)も、「2022年1月1日から2036年12月31日までにマレーシアで受け取った以下の所得は、条件を満たせば免税の対象となりうる」と記載しています。対象として挙げられているのは次の2つです。

  • 国外源泉所得(マレーシア国内のパートナーシップ事業を通じて受け取る所得を除く、すべての所得区分)
  • マレーシア国内のパートナーシップ事業を通じて受け取る国外配当所得

要するに、個人が海外から受け取る所得は、パートナーシップ絡みの一部を除いて広く免税の枠に入っています(ただし、次に説明する条件を満たす場合に限ります)。

日本語の解説はまだ2036年に追いついていない — ジェトロも要注意

ここで一つ注意しておきたいことがあります。日本語で読める情報源の中でも代表的なジェトロ(日本貿易振興機構)「税制|マレーシア」(2026年8月7日更新)は、個人の国外源泉所得免税について「2026年12月31日まで(2026年度税制改正により、2030年12月31日までに延長予定)」と記載しており、2036年12月31日への延長(P.U.(A) 451/2024・2024年12月24日官報公示)を反映していません

なお同ページは、個人の免税要件として「源泉地国の課税対象で最高税率が15%以上であること」も挙げていますが、この表面税率15%の要件は、ACCAの解説では居住法人・LLPが受け取る国外配当所得に課される要件として説明されています(次の「免税を受けるための条件」で詳述)。

一次資料である官報公示、およびPwC Worldwide Tax Summaries(2026年6月16日時点レビュー)の現行記載はいずれも「2022年1月1日〜2036年12月31日」であり、本記事もこちらに準拠しています。日本語の解説サイトを参照する際は、更新時点によって古い期限のまま止まっている場合があることに注意してください。

免税を受けるための条件

延長されたとはいえ、無条件で非課税になるわけではありません。押さえるべきは3点です。

1. マレーシアの税務上の居住者であること

ジェトロの国・地域別税制情報は、マレーシアの居住者判定について「マレーシアに1年間に182日以上滞在する場合には居住者とされる」としています。PwCも「暦年で182日以上マレーシアに滞在した個人」を居住者と説明しており、両者は一致しています。

この免税措置の対象は「居住者個人」です。182日に満たず非居住者と判定される場合は、そもそもこの枠組みの外です。

2. 源泉地国ですでに課税されていること

The Edge Malaysiaは、この免税が「源泉地国で課税された国外源泉所得に適用される」と報じています。ACCAの解説はより踏み込んで、内国歳入庁(LHDN)のガイドラインの考え方として「非開示または脱税により源泉地国で課税されていないFSIについては、居住者に免税は認められない」という原則を挙げています。

なお、「源泉地国の表面税率(headline tax rate)が15%以上」という追加要件は、ACCAの原文では居住法人・LLPが受け取る国外配当所得に課される要件として説明されています。個人が直接受け取る国外源泉所得(年金・不動産収入・配当等)にはこの15%要件はかかりません。個人にこの要件がかかるのは、マレーシア国内のパートナーシップ事業を通じて国外配当を受け取る場合に限られます。

3. マレーシア国内のパートナーシップ事業を通じた所得は原則対象外(配当を除く)

ACCAは「居住者個人については、マレーシア国内のパートナーシップを通じて受け取る所得(事業所得・賃料・ロイヤルティ・利子)を除き、すべてのFSIが免税」と整理しています。現地でパートナーシップ形態の事業に関与している人は、自分の受取がどちらに当たるかを確認する必要があります。

「免税」は「申告しなくていい」ではない

見落とされやすいのがここです。内国歳入庁(LHDN)は「国外からの所得の税務上の取扱い」というガイドラインを公表しており(原版2022年9月29日、2022年12月29日に改訂版、さらに2024年6月20日にも改訂版が出ています)、居住者個人について次の2点を求めています(EY Malaysiaのタックスアラート、2022年10月3日、で内容を確認)。

  • 納税者は、当該国外所得が免税の対象である旨を確定申告書で申告・開示する必要がある
  • 納税者は、その所得が国外で課税されたことを示す書類(配当支払通知書=dividend voucher、源泉地国の賦課決定通知=notice of assessmentなど)を7年間保管しなければならない

これらの申告・書類保管義務は、2036年への期限延長(P.U.(A) 451/2024)より前から定められている要件であり、期限が延びても要件自体が緩和されたわけではありません。「免税だから何も出さなくていい」と考えて記録を残していないと、後日の照会に答えられません。

参考:免税が効かない場合の税率

免税要件を満たさない所得は、通常の所得税の対象になります。PwCが公表しているマレーシアの個人所得税率(居住者・累進)の主な区分は次のとおりです。

  • 課税所得 RM5,000以下:0%
  • RM5,001〜RM20,000:1%
  • RM20,001〜RM35,000:3%
  • RM35,001〜RM50,000:6%
  • RM50,001〜RM70,000:11%
  • RM70,001〜RM100,000:19%
  • RM100,001〜RM400,000:25%
  • RM400,001〜RM600,000:26%
  • RM600,001〜RM200万:28%
  • RM200万超:30%

一方、非居住者は課税所得に対して一律30%(PwC「非居住者は課税所得の合計額に対し一律30%の税率が適用される」)。ジェトロも非居住者の給与所得について同様の税率を挙げていますが、こちらは雇用に基づきマレーシアでの就労が60日以内であれば免税となる、という但し書き付きの記載です。非居住者全般の税率としてはPwCの記載が正確です。

法人・LLPは期限が違う——キャピタルゲインは2030年まで確定、配当は延長"提案"段階

ここが最も混同されやすい点です。個人と法人・LLPでは、免税の対象・確定状況がそれぞれ異なります。

国外資産の売却益(キャピタルゲイン)は2030年12月31日まで確定済み

マレーシア居住法人・LLP・信託団体・協同組合を対象とする国外資産キャピタルゲインの免税は、2026年7月29日に官報公示されました(Income Tax (Exemption) (No. 3) Order 2024 (Amendment) Order 2026=P.U.(A) 275/2026。改正対象は P.U.(A) 75/2024)。従来2026年12月31日までだった免税期間の終期が2030年12月31日まで4年延長されました(改正部分は2027年1月1日施行)。これはKPMGの予算案提案まとめより新しい、確定済みの情報です。

国外配当所得は、まだ2026年度予算案の"提案"段階

一方、マレーシア居住法人・LLPが受け取る国外配当所得の免税延長(2027年1月1日〜2030年12月31日)は、KPMGが2025年10月にまとめた2026年度予算案(Budget 2026)の税制提案の段階にとどまります。現行の官報(P.U.(A) 235/2022=Income Tax (Exemption) (No. 6) Order 2022)は、2026年8月時点でも依然として「2022年1月1日〜2026年12月31日」のままで、2030年への延長を確定する官報公示は確認できていません。PwC Worldwide Tax Summaries(法人・2026年6月16日レビュー)もキャピタルゲインの項で「2030年12月31日までの延長はBudget 2026の提案(proposed extension)」と記載しており、官報公示前の状態であることと整合します。

つまり、法人・LLPの免税はキャピタルゲイン=確定(2030年12月31日まで)、配当=延長される予定(未公示)という状態です。個人の2036年12月31日と比べても、法人側は6年短く、しかも一部は未確定という点に注意が必要です。

今後の注目点:2027年度予算案は10月9日提出予定

免税措置はあくまで期限つきの時限措置であり、毎年の予算案で内容が変わり得ます。実際、個人向けは2024年10月の予算案で10年延ばされ、法人向けのキャピタルゲインは2026年7月の官報公示で4年延ばされました。

次の節目は2027年度予算案(Budget 2027)です。アンワル首相は2026年7月23日、Humane Economy Global Discourse 2026出席後の取材で、Budget 2027を「10月上旬」に議会へ提出する見通しを示しました(DayakDaily)。その後、2026年8月7日のMalay Mail報道では、提出日が2026年10月9日と具体的に伝えられています。同じ8月7日の報道では、Budget 2027で国防費を増額する方針も示されました(いずれもMalay Mail)。

海外からの所得でマレーシアの生活を組み立てている人にとって、10月の予算案演説は毎年チェックしておきたいイベントと言えます。

まとめ

  • マレーシアは2022年1月1日から、居住者が国内で受け取る国外源泉所得を課税対象とした
  • 個人向けの免税措置は当初2026年12月31日までの時限措置だったが、2036年12月31日まで10年延長済み(2024年10月の予算案で表明、同年12月24日にP.U.(A) 451/2024として官報公示)
  • 免税の条件は、①マレーシアの税務上の居住者(暦年182日以上)であること、②源泉地国で課税済みであること、③マレーシア国内のパートナーシップを通じた所得でないこと(配当を除く)
  • 免税でも、申告書での申告と裏付け書類の7年間保管は必要
  • 法人・LLPは対象で状況が異なる国外資産キャピタルゲインの2030年12月31日までの延長は2026年7月29日付で官報公示済み(P.U.(A) 275/2026)、国外配当所得の2030年12月31日までの延長はまだ予算案の提案段階(未公示)
  • 日本語の主要な情報源(ジェトロ)は2026年8月7日更新時点でもこの2036年への延長を反映していないため、日本語記事を参照する際は更新時点に注意
  • 時限措置であるため、毎年10月の予算案で変更され得る。2027年度予算案は2026年10月9日提出予定

なお本記事は、公表されている制度情報を整理したものであり、個別の税務判断を示すものではありません。国外源泉所得の扱いは、日本側での居住者・非居住者の判定や日マレーシア租税条約とも関係します。実際の申告にあたっては、マレーシアの認可タックスエージェントおよび日本の税理士に相談してください。


参考: The Edge Malaysia、Bloomberg Tax、PwC Worldwide Tax Summaries(マレーシア・個人/法人)、KPMG、ACCA(英国勅許公認会計士協会)、EY Malaysia、ジェトロ(日本貿易振興機構)、マレーシア司法長官府(AGC)官報 P.U.(A) 275/2026、DayakDaily、Malay Mail

※ 本記事の情報は2026年8月13日時点のものです。制度は予算案等により変更される可能性があります。最新の取り扱いは内国歳入庁(LHDN)の公表資料および専門家にご確認ください。