マレーシアで車を買うとき、ほぼ全員が使うのが「ハイヤーパーチェス(Hire Purchase=割賦購入)」と呼ばれる自動車ローンです。この仕組みを定める法律が2026年6月1日に大きく変わりました。そして2026年9月には、対応する金融機関を広げる「第2フェーズ」が始まる予定です。
在住日本人にとって他人事ではありません。駐在の任期満了や本帰国で、ローンを完済しきる前に車を売る人は珍しくないからです。今回の改正は、まさにその「早期完済」で損をしない方向への変更です。
何が変わったのか — 「フラットレート」と「78分法」の廃止
改正割賦販売法(Hire-Purchase (Amendment) Act 2026)は2026年1月30日に官報公示され、2026年6月1日に施行されました。関連する規則も同日から適用されています。
日系法律事務所 One Asia Lawyers Group(弁護士法人One Asia)の解説によれば、この改正で廃止されたのは次の2つです。
- ●フラットレート方式(当初の借入元本に対して一律に金利をかける方式)
- ●78分法(Rule of 78)(利息を返済期間に配分する計算ルール)
代わりに導入されたのが、
- ●実効金利(Effective Interest Rate:EIR)方式
- ●残高逓減方式(返済によって減った残高に対して利息を計算する)
の2つです。住宅ローンでおなじみの考え方が、ようやく自動車ローンにも入ってきた、というイメージです。
「78分法」の何が問題だったのか
マレーシア自動車メディアの paultan.org は、78分法を「ローン期間の初期により多くの利息を配分し、終盤に向かって徐々に減らしていく」方式だと説明しています。
これが早期完済に不利に働きます。返済の初期は毎月の支払いの大半が利息に充てられるため、数年払い続けても元本が思ったほど減っていない。そこで「もう車を売って帰国するから一括で清算したい」となったとき、残債が想像以上に大きく見えるわけです。
paultan.org は2025年11月14日の記事で、具体例として、RM100,000を9年で借り、フラットレート年3%の場合を挙げています。
- ●利息の総額:RM27,000
- ●毎月の支払い:RM1,176
- ●しかし実効金利に直すと年5.5%相当
「3%」という表示のインパクトと、実際の負担がここまで違う。EIR表示が義務づけられた狙いは、この差を見えるようにすることにあります。
残高逓減方式になると、利息は減っていく元本に対してかかるため、初期に利息が前倒しされることがなくなります。paultan.org は、この方式での節約効果は3年目あたりで最大になり、そこを過ぎると差は縮んでいくと解説しています。
いま注目すべきは「9月の第2フェーズ」
ここが今回いちばん実務的なポイントです。法律が施行された6月1日の時点で、新方式に対応済みだった金融機関・割賦販売会社は11社でした。
マレーシア国営通信ベルナマなどによると、所管官庁 KPDN(Ministry of Domestic Trade and Cost of Living/ジェトロの表記では「マレーシア国内取引・生活費省」)のアルミザン・モハド・アリ大臣は5月31日の会見で、次のように説明しています。
- ●第2フェーズの実施は2026年9月を目標
- ●システム統合や改修などの準備が続いている事業者には、2027年3月31日までの移行期間を付与
- ●新しい規定の恩恵を受けたい消費者は、契約を確定する前に必要な確認をするよう呼びかけ
つまり、2026年8月時点で、すべての金融機関が新方式に切り替わっているとは限りません。最長で2027年3月末までは、旧方式のままの事業者が残りうるということです。ディーラーで提示されたローン条件が新法に沿ったものか、契約書にサインする前に確認する意味は十分にあります。
なお、9月の第2フェーズ開始について、本稿の情報時点(2026年8月18日)では5月31日の発表以降の追加アナウンスは確認できませんでした。実際の開始状況は各金融機関にご確認ください。
6月1日より前に組んだローンはどうなる?
すでにローンを抱えている人にとっては、こちらが本題でしょう。
One Asia Lawyers の解説によれば、改正法施行前に締結された契約は、原則として従来の契約に基づく計算方法が継続します。ただし例外があります。
改正法施行前に締結された割賦販売契約について、借主および貸主が合意する場合には、改正後の上記新しい残債計算方法を採用することができる
ただしこれは、契約を早期に完了させるときの残債(ネットバランス)の計算方法についての選択です。ローン全体が残高逓減方式に組み替わるという意味ではありません。
さらに、マレーシアの銀行業界団体(ABM・AIBIM・ADFIM)は共同で「グッドウィル・ディスカウント」を発表しています。これは、フラットレート方式や78分法で組まれた既存の固定金利契約について、早期返済する際に改正法が適用された場合に近い経済的効果を受けられるようにする、銀行側の善意に基づく割引措置です。Motorist Malaysia によれば、大幅な延滞や法的手続き中の口座は対象外とされています。
法律上の義務ではなく業界の自主的な取り組みとされているため、適用条件は金融機関ごとに異なる可能性があります。早期完済を考えているなら、自分の借入先に「グッドウィル・ディスカウントの対象になるか」「新しい残債計算方法を選べるか」の2点を問い合わせてみる価値があります。
そのほかの実務的な変更点
One Asia Lawyers の解説から、契約実務に関わる変更をいくつか。
- ●金利変更時の事前通知—金利が見直される場合、少なくとも14日前までに借主へ書面で通知する義務
- ●電子化—借主が書面で同意すれば、契約書類を電子的に提供することが可能に
- ●本人確認の厳格化—新設された第4B条第1A項により、貸主は契約を希望する借主の本人確認のためのデューデリジェンスを実施する義務
- ●契約書の書式—少なくとも10ポイントのTimesフォントを用い、黒色の文字で作成すること
最後の一つは細かく見えますが、読めない小さな文字で不利な条件を紛れ込ませることを防ぐための規定です。
なお金利環境の参考として、マレーシア中央銀行(BNM)の政策金利OPRは2026年7月9日の金融政策委員会でも2.75%に据え置かれています(2025年7月に3%から引き下げられて以降、据え置きが続いています)。ただし割賦販売の金利がこの水準にどう連動するかは金融機関や契約タイプによって異なるため、実際に適用される金利は借入先にご確認ください。
在住日本人のためのチェックリスト
これから車を買う人
- 1提示された金利が「フラットレート」表示か「EIR」表示かを確認する
- 2複数の金融機関をEIRで比較する(フラットレートの数字同士を比べても意味がない)
- 3その金融機関が新法に対応済みか確認する。移行期間は2027年3月31日まで
すでにローンがある人
- 16月1日より前の契約なら、原則は旧方式のまま
- 2早期完済の予定があるなら、借入先に「グッドウィル・ディスカウント」の適用可否を問い合わせる
- 3貸主と合意できれば、早期完済時の残債計算に新しい方法を選べる余地があるため、あわせて確認する
共通
- ●金利が見直されるタイプの契約なら、変更の14日前までに通知が来るはず。来ていない場合は要確認
参考
- ●One Asia Lawyers Group「マレーシア:割賦販売法の改正について」(2026年6月15日/執筆: 日本法弁護士 橋本有輝・佐々木順一郎、マレーシア法弁護士 Huzir Shamsul Bahrin)
- ●paultan.org「Hire Purchase (Amendment) Act 2026 comes into force on June 1 – no more flat rates and Rule of 78 method」(2026年3月16日)
- ●paultan.org「Hire purchase rules are changing – flat rate, Rule of 78 out; EIR, reducing balance method starting next year」(2025年11月14日)
- ●BERNAMA「11 Financial Institutions Offering Hire Purchase Financing Under Amended Law」(2026年5月31日)
- ●The Edge Malaysia「Armizan: 11 financial institutions to offer financing under hire purchase revamp」(2026年5月31日発表分)
- ●Shearn Delamore & Co.「The Hire Purchase (Amendment) Bill 2025 comes into force in 2026」
- ●Global Law Experts「Hire-Purchase (Amendment) Act 2026 in Malaysia」
- ●Motorist Malaysia「Hire Purchase Amendment 2026: Bank Discounts for Early Car Loan Settlement」(2025年12月8日)
- ●ジェトロ「原産地表示:マレーシア」(省庁名の日本語表記)
- ●ジェトロ ビジネス短信「2024年改正会社法を4月に施行、実質的所有者の届け出義務化(マレーシア)」(2024年4月25日/大臣名の日本語表記)
- ●Free Malaysia Today / New Straits Times(OPR据え置き、2026年7月9日)
情報の時点:2026年8月18日。制度の運用状況は変わる可能性があります。実際の契約・完済にあたっては、必ず借入先の金融機関にご確認ください。本記事は法務・税務上の助言ではありません。