高速道路の料金所で「何も出さずに」通れるようになった
マレーシアの高速道路最大手PLUS Malaysiaは2026年8月中旬、ナンバープレート自動認識(ANPR)による通行料支払いシステム「JustGO」を、南北高速道路(North-South Expressway、NSE)の全線で有効化した。
これまでのように専用レーンを探してTouch 'n GoカードをタッチしたりRFIDタグを読ませたりする必要がなく、料金所に設置されたカメラが車のナンバープレートを読み取り、スマートフォンアプリに登録した銀行カードへ自動で課金される。ショッピングモールの駐車場でナンバー認識により精算される仕組みと同じ考え方だ。
在住日本人にとって重要なのは、この仕組みがパスポートで本人確認(e-KYC)できる=マレーシア国籍でなくても登録できるという点と、その一方でマレーシア国内の銀行が発行したカードが必須という点である。日本語での解説がほとんど出回っていないため、公式FAQを踏まえて整理する。
どの高速道路で使えるのか
2026年8月19日時点で、JustGOのANPR支払いが有効化されているのは以下の路線だ。
- ●南北高速道路(NSE) — JustGO対応の北端はJitra料金所、南端はジョホール州のKempas料金所。NSE自体の北端であるタイ国境のBukit Kayu Hitam料金所や、Kempasより南の料金所は現時点では対象に含まれていない
- ●セントラルリンク(ELITE)
- ●新クラン・バレー高速道路(NKVE)
- ●バターワース・クリム高速道路(BKE) — Kubang Semang、Lunasの各料金所
- ●スレンバン・ポートディクソン高速道路(SPDH) — Mambau、Lukutの各料金所
- ●マレーシア・シンガポール第二連絡橋(Second Link) — Tanjung Kupang、Lima Kedai、Perlingの各料金所
- ●ペナン第二大橋 — Bandar Cassia料金所。ただしここは赤い丸印のあるRFIDレーンのみ対応
一方、ペナン大橋(第一大橋)は現時点では対象外。PLUSは近く追加する予定で、準備ができ次第あらためて発表するとしている。
なお、JustGOの公式FAQ(2026年7月28日付・バージョン6.1)に掲載されている対象料金所リストは18か所で、8月の全線展開より前の時点のものだ。対象は随時拡大されるため、最新の一覧は公式サイト(www.justgo.com.my)で確認するのが確実である。
仕組み — 「レーンを選ばなくていい」
PLUSはこの方式の利点を「レーン・フリーダム(Lane Freedom)」と呼んでいる。従来はTouch 'n Goカード、SmartTAG、RFIDのどれを使うかによって入るレーンが決まっていたが、ANPRが有効な料金所ではどのレーンから入っても出てもよい。
PLUSによると、料金所を通過する際は停止する必要はないが、時速20〜25キロ程度を維持することが推奨されている。
対象車種はクラス1のみ。公式FAQでは「2軸・3輪または4輪の乗用車(セダン、SUV、MPV、小型ピックアップなど)」と定義されている。クラス1は高速道路利用者の最大グループであり、まずここから始めてシステムを安定させ、後の段階で他の車種クラスに広げるという方針だ。
JustGOのスポークスマンであるPeter Lee氏は、クラン・バレーおよびPLUS全線への展開により、1日あたり180万人から200万人のドライバーが恩恵を受けると説明している。
在住日本人は登録できるのか
結論から言えば、登録の可否を分けるのは国籍ではなく「カード」と「車の名義」である。
公式FAQ(バージョン6.1)が定める手順は次の5段階だ。
- 1電話番号の認証 — 有効な携帯番号を登録
- 2メールアドレスの認証 — 送られてくるリンクで確認
- 3本人確認(e-KYC) — 身分証明書と生体認証
- 4車両登録(e-KYV) — 車両所有証明書と車の写真
- 5支払い方法の登録(e-KYP) — デビットカードまたはクレジットカード
このうち在住日本人が確認しておくべきなのは3〜5である。
③ 本人確認 — パスポートで可能
FAQは「マレーシア国籍者」と「非マレーシア国籍者」の手順を分けて明記している。非マレーシア国籍者は、パスポートの1ページ目(データページ)を、下部の機械読取領域(MRZ)がはっきり写るように、無地の背景で撮影して提出する。加えて、リアルタイムの自撮りによる生体照合(顔が隠れておらず、明るい場所で撮影されていること)が必要になる。
プロフィールに登録した氏名と身分証明書番号が、パスポート記載の内容と一致していることが条件だ。一致しない場合は却下され、再提出になる。
なお、登録には17歳以上であることが必要とされている。
④ 車両登録 — MyJPJアプリの所有証明書が要る
車両登録では、陸運局(JPJ)の「MyJPJ」アプリから取得できる車両所有証明書(Vehicle Ownership Certificate、VOC)をアップロードし、あわせて車の前後の全体像とナンバープレートが明るくはっきり写った写真を撮影する。所有者情報と車両情報が一致しない場合は却下される。
自分名義でない車を登録する場合は、「その車の利用を許可された者」として、車の所有者のMyKadと車両所有証明書を提出する。社用車など法人・団体名義の車であれば、事業登録証明書と車両所有証明書が必要になる。この場合の審査は手動で、土日祝を除き48時間以内に処理される。
登録できる車両は最大10台まで。車を買い替えた場合は、古い車両を削除したうえで新しい車で車両登録をやり直す。車を売却した場合はただちにアプリから削除する必要がある。削除しないと、新しい所有者がその車でANPRを通過した際の通行料が自分に請求され続けることになる(削除には24時間の待機期間がある)。
⑤ 支払いカード — マレーシア国内の銀行発行が必須
ここが最大の関門になる。公式FAQは、登録できるカードを次のように定めている。
受け付けられる銀行カードは、MyDebit / Mastercard / Visa / American Express のロゴがあるクレジットカード、デビットカード、またはプリペイドカードであり、マレーシア国内の銀行が発行したものでなければならない。
つまり、日本の銀行やカード会社が発行したカードは登録できない。マレーシアの銀行口座とカードを持っていることが前提となる。
登録できるカードは最大3枚で、優先順位を自分で並べ替える。上位のカードから順に課金が試みられる仕組みだ。カード登録時にエラーが出る場合は、カード発行銀行のアプリやネットバンキング、ATMでCNP(Card-Not-Present、非対面取引)機能を有効にする必要がある。
また、カードを登録する際にRM4の与信枠確保(オーソリ)が行われる。これはカードが有効であることを確認するための処理で、実際の請求ではなく、確認が完了すると自動的に取り消される。解除までの時間は銀行によって異なる。
使い始める前に知っておきたい5つの注意点
1. 残高不足だと現金で出られない
FAQは明確に「(残高不足の場合に)現金で高速道路を出ることはできません」と述べている。出発前にカードの残高を確認しておくこと。走行中に気づいた場合は、R&R(休憩エリア)など安全な場所に停車してからチャージするよう案内されている。
2. ナンバーが読み取れないと、Touch 'n Go eWalletから引き落とされる
FAQには「ANPRシステムが車のナンバープレートを検知できなかった場合、通行料は登録した銀行カードに請求できず、Touch 'n Go eWalletに請求される」という項目がある。この場合ユーザー側の対応は不要とされているが、裏を返せばTouch 'n Go eWalletにもある程度の残高を残しておくのが安全ということになる。
3. 未払いがあるとアカウントが停止される
通行料の支払いが未処理のまま残ると、ANPRアカウントのステータスが「SUSPENDED(停止)」になる。この状態ではANPRでの支払いができなくなるほか、車両の追加・削除・デフォルト設定の変更もできなくなる。アプリの取引履歴タブに赤く表示された未払い分を精算すれば解除される。
4. 走り出す前にアプリの表示を確認する
FAQは、利用可能な状態かどうかを次の2点で判断するよう案内している。アプリのホーム画面に自分の車のナンバーと連携した銀行のロゴが表示されていること、そしてプロフィールページでANPRのステータスが「ACTIVE」になっていること。
5. 動作環境が比較的新しい
JustGOアプリの動作要件は、Android 10以上、iOS 18.0.0以上、ファーウェイのEMUIはバージョン10以上。古いOSはセキュリティ更新の対象外で脆弱性のリスクが高いため、というのが公式の説明だ。
Touch 'n Go・RFID・SmartTAGはどうなるのか
JustGOはあくまで支払い手段の選択肢が一つ増えたものであり、従来のTouch 'n Goカード、RFID、SmartTAGが使えなくなるわけではない。専用のRFIDタグを車に貼る必要がないことがJustGOの利点として挙げられている。
なお、ANPRでの支払いにはPLUSMilesポイントが付与される。付与率は1キロメートル=1ポイントで、6か月で失効する(ただし法人アカウントには現時点でポイントは付与されない)。ポイントの確認と交換はPLUSアプリのPLUSMilesアカウントから行う。
すでにPLUSMilesの会員である場合は、既存のユーザー名とパスワードでJustGOにサインインでき、登録手続きをやり直す必要はない(携帯番号やメールアドレスの認証は必要になる場合がある)。
ここまでの経緯
JustGOのANPR方式は、2026年1月に南北高速道路のHutan Kampung〜Sungai Dua間(87.7キロ)の9料金所でパイロット運用として始まった。2026年2月12日には、公共事業省(Kementerian Kerja Raya/Ministry of Works)、高速道路を所管する政府機関Lembaga Lebuhraya Malaysia(LLM)、そしてPLUS Malaysia Berhadの3者により制度として正式に立ち上げられた。その約1週間後の2月中旬時点で、アプリのダウンロード数は20万件に迫っていた。
その後、2026年6月にJitra、Lunas、Kubang Semangが追加され、7月中旬にはSeremban-Port Dickson高速道路のMambau・Lukut、南北高速道路のKempas、第二連絡橋のTanjung Kupang・Lima Kedai・Perlingの6料金所が加わって計18か所となった。Peter Lee氏によれば、6月時点でダウンロード数は約30万件に増えている。そして8月、PLUS全線での運用開始に至った。
PLUSは、ANPRを用いたオープン方式の通行料支払いシステムはマレーシアの高速道路業界で初めての取り組みだと説明している。
JustGOを運営するのはJustGO Solutions Sdn Bhdで、PLUSの完全子会社にあたる。問い合わせ窓口は contact@justgo.com.my、カスタマーサービスの受付時間は祝日を除く毎日9時〜23時となっている。
参考: paultan.org(2026年8月19日、2026年7月3日、2026年2月19日)、Malay Mail(2026年8月21日、2026年7月15日)、The Rakyat Post(2026年7月7日)、RinggitPlus(2026年7月16日)、JustGO Malaysia公式FAQ バージョン6.1(2026年7月28日付)、JustGO公式サイト
本記事は2026年8月21日時点の情報に基づく。対象料金所や登録条件は変更される可能性があるため、実際の手続きの際は公式サイト・アプリで最新の情報を確認してください。