「低負担」の落とし穴——最新研究が示すピックルボールのケガ実態と、今日からできる予防策
「膝にやさしい」「シニアでも安心」——ピックルボールはそう語られることが多い。実際、テニスよりコートが狭く、ボールも軽い。だが「負担が少ない=ケガをしない」ではない。2025年に相次いで発表された2本の独立した査読研究が、急成長するこのスポーツのケガの実態を、はじめて大規模なデータで描き出した。日本でも競技人口が伸びるいま、知っておきたい内容だ。
プレイヤー1,758人調査:3人に2人が年1回はどこかを痛めている
1本目は、米セントルイス大学の研究チームが学術誌『Sports Medicine – Open』に2025年8月に発表した、プレイヤー1,758人(平均年齢62.7歳、18〜102歳)へのアンケート調査だ。
- 過去1年で68.5%が何らかのケガを経験
- 40.8%は1日以上プレーを中断する「時間損失を伴うケガ」
- 51.2%は症状を抱えたままプレーを続ける「中断に至らないケガ」(両方を経験した人もいるため、上記2つの割合は単純合計にはならない)
- 35.9%が調査時点で痛みや慢性的な不調を抱えていた
痛めやすい部位は、膝(29.1%)、太もも・脚・足(合計26.9%)、肩(22.2%)、腰・背中(19.9%)、肘(18.4%)の順。ケガの種類では、使いすぎ(オーバーユース)による慢性的な不調が35.3%と最多で、関節・靱帯の捻挫(23.8%)、筋肉の肉離れ(20.7%)が続いた。
研究チームは、ケガのリスクが高くなる要因として次を挙げている。
- 男性(女性よりオッズが約1.3倍)
- 週3回以上の高頻度プレー
- 競技歴5年未満
- ケガ予防への意識が低い・中程度
つまり「始めたばかりで、うれしくて頻繁にプレーし、予防を意識していない人」が典型的なリスク層ということになる。
救急外来データ:10年で受診が22倍、高齢者の「転倒骨折」が突出
2本目は、学術誌『Orthopaedic Journal of Sports Medicine』に2025年1月に発表された研究だ。米国の傷害調査データベース(NEISS)をもとに、2013〜2022年の10年間に救急外来を受診したピックルボール関連のケガを分析している。
- この10年で、救急外来の受診件数は約22倍に増加
- ケガの65.5%は「転倒」が原因
- 65〜80歳の層が全体の61.1%を占める
- 81歳以上では、実に96%が転倒によるもの
- 診断名で最も多いのは骨折(32.7%)、次いで捻挫・肉離れ(30.8%)
性差も顕著だ。プレイヤーに占める女性の割合は約4割とされる一方、救急外来の受診者では女性が50.6%を占め、骨折に限ると全体の69.1%が女性だった。最も多く負傷した部位は手首(12.7%)で、転倒時に手をついて骨折する典型的なパターンがうかがえる。
2本の研究は、調査対象も手法も異なる。1本目は「プレイヤーへの自己申告アンケート(軽いものも含む全般のケガ)」、2本目は「救急外来に至った比較的重いケガ」を見ている。だからこそ、両者を重ねると全体像が見えてくる。日常的なケガはオーバーユースと膝まわりが中心、一方で救急搬送を要する重いケガは高齢者の転倒骨折が中心、という構図だ。
「動いて楽しい」は本当。だからこそ予防を
誤解のないように補足すると、どちらの研究もピックルボール自体を否定していない。救急外来の研究チーム自身が「低負担な運動という評判があるにもかかわらず」と前置きしたうえで、続けるためのケガ予防を訴えている。社会的なつながりや心身の充実感といった効用は、別の複数の研究でも繰り返し報告されている。要は「安全に長く続けるための準備」の問題だ。
研究者らが挙げる予防のポイントは、特別なものではない。
- ウォームアップを省略しない — いきなり全力で動き出さない
- バランス・体幹トレーニングを取り入れる — 転倒そのものを減らす
- 骨の健康を保つ — 特にシニア世代は骨密度への配慮を
- プレー頻度を管理する — 「毎日でも足りない」時期こそオーバーユースに注意
- 予防意識を持つ — リスクを知っているだけで行動が変わる
とりわけ日本ではシニア層を入り口に普及が進んでいる。手軽さは大きな魅力だが、「低負担」という言葉を鵜呑みにせず、ウォームアップと下半身・体幹の強化を習慣にしておきたい。痛みを我慢して続けることが、慢性化への最短ルートになりかねない——2本の研究が共通して伝えているのは、そのシンプルな事実だ。
参考: Sports Medicine – Open(2025年8月・セントルイス大学「プレイヤー1,758人の傷害パターンと予測因子に関する全国調査」)、Orthopaedic Journal of Sports Medicine(2025年1月・NEISSデータによる「米国救急外来を受診したピックルボール外傷の10年間の疫学分析」)。数値は各論文の公表値に基づく(情報時点:2026年7月)。