アジアの実測データが示す「膝と過使用」——韓国の最新調査、ピックルボール愛好者の38%が過去1年でケガ
ピックルボールは「体への負担が少ない」と語られがちだが、実際にアジアの愛好者はどれくらいケガをしているのか。2026年7月22日、韓国の大会参加者を対象にした最新の疫学調査が学術誌に掲載され、レクリエーション層の約38%が過去12か月に何らかの外傷を経験していたことが明らかになった。米国データが中心だった従来の議論に、地理的・文化的に日本に近いアジアの実測値が加わった意味は大きい。本記事では、この最新研究と、前年に別コホートで行われた韓国調査、さらに世界的な総説を突き合わせ、日本のプレイヤーが押さえておきたいポイントを整理する。
韓国の最新調査(2026年7月発表)が示したこと
今回の研究は、韓国・成均館大学(Sungkyunkwan University)と延世大学(Yonsei University)の研究チームが実施し、学術誌 Frontiers in Public Health に2026年7月22日付で掲載された横断的調査(cross-sectional survey)である。
- 対象は韓国国内の複数の全国トーナメント参加者 383人(男性249人・女性134人)、平均年齢 47.0 ± 12.8歳
- データは2025年4月〜10月に、構造化された質問票を用いて現地で収集
- 過去12か月の外傷有病率は38.1%(146人)
ケガの部位は下肢に集中していた。
- 下肢全体:44.0%
- 膝:21.4%
- 足関節・足部:15.8%
ケガの種類では、筋・腱の損傷が最も多かった。
- 筋・腱損傷:43.3%
- 関節損傷:29.1%
さらに、この研究はケガと関連する要因も分析している。
- 男性であること:オッズ比 OR = 1.74(95%信頼区間 1.04–2.90、p = 0.035)
- 週あたりのプレー時間が長いこと:OR = 1.06(95%信頼区間 1.02–1.11、p = 0.006)
つまり、男性と、プレー時間が長い人ほどケガのリスクが高い傾向がみられた。研究チームは、韓国のレクリエーション層のおよそ38%が1年間で外傷を経験しており、下肢の障害と使いすぎ(オーバーユース)型の障害が主流だと結論づけている。
前年の別コホート調査とも整合
同じ Frontiers in Public Health には、2025年8月11日付で、別の対象者を集めた韓国のピックルボール外傷調査も掲載されている。こちらは参加者 232人(男性136人・女性96人、平均年齢 50.5 ± 12.2歳)を対象とし、
- 過去12か月の外傷有病率:34.2%(79人)
- 最も多い部位:膝(23.3%)、次いで肘・前腕(18.1%)、肩・上腕(17.2%)
- ケガの種類:筋・腱損傷(33.3%)、関節の捻挫・脱臼(28.3%)
- 発症メカニズム:過使用によるものが78%、外傷性が22%
2つの研究は、2025年に3大会で集めた383人(最新調査)と、2024年の単一大会で集めた232人(前年調査)という別々のコホートを対象としており、対象者の重複はない。ただし両研究とも成均館大・延世大の同一研究グループによるもので、完全に独立した検証ではない点は割り引く必要がある。それでも異なる集団で同じ傾向が確認されたことは、結論を補強する材料となる。
世界的にも「下肢・過使用」は共通の傾向
アジアだけの現象ではない。米国整形外科学会誌 Journal of the American Academy of Orthopaedic Surgeons(2024年)の総説によると、救急外来で最も多いピックルボール外傷は筋肉の張り(ストレイン)、関節の捻挫、骨折であり、男性は筋の張りと捻挫が約3倍多く、女性は骨折が約3倍多いという性差が報告されている。また参加者は35歳以上が最も多い層であることも指摘されている。
韓国の2つの研究と米国の総説はそれぞれ独立した研究者・データベースによるものだが、「筋・腱や関節を痛めやすい」「使いすぎが引き金になりやすい」という点で共通している。ピックルボールは確かに始めやすいスポーツだが、「ケガと無縁」ではないというのが、複数の証拠が指し示す現実だ。
日本のプレイヤーへの示唆
米国の高齢層データを扱った既報に対し、本記事はより幅広い年齢のアジアの大会参加者を対象とした最新知見を補うものだ。これらの研究は韓国と米国のデータであり、日本のプレイヤーにそのまま当てはまるとは限らない。また、いずれも横断的調査(ある時点でのアンケート)であり、因果関係を証明するものではなく、大会参加者という比較的活発な層が対象である点にも注意が必要だ。そのうえで、複数の研究が共通して示す傾向からは、次のような実践的な心構えが読み取れる。
- 膝・足首まわりを重点的にケアする — ケガの多くは下肢、とくに膝に集中している。プレー前のウォームアップとプレー後のクールダウンを、下肢を中心に丁寧に行う
- 「使いすぎ」に気をつける — 最新調査では週あたりのプレー時間が長いほどケガのリスクが上がる傾向がみられ、前年の調査でも過使用が発症メカニズムの約8割を占めた。楽しくてつい長時間・連日プレーしがちだが、休養日を設けるなど負荷の管理が重要
- 痛みを我慢しない — 筋・腱や関節の違和感を放置すると慢性化しやすい。痛みが続く場合は無理をせず、整形外科など専門家に相談する
「体への負担が少ない」はピックルボールの大きな魅力だが、それは「正しく付き合えば」という前提つきだ。最新のアジアの実測データを、より長く安全に楽しむためのヒントとして活用したい。
参考:
- Frontiers in Public Health「Prevalence and associated factors of pickleball-related injuries among Korean recreational players: a multi-tournament cross-sectional study」(2026年7月22日)
- Frontiers in Public Health「Injury risk and epidemiology of pickleball players in South Korea: a cross-sectional study」(2025年8月11日)
- Journal of the American Academy of Orthopaedic Surgeons「Pickleball: A Standard Review of Injury Prevalence and Prevention」(2024年)
(本記事は2026年7月25日時点で公開されている上記の学術論文にもとづく。数値は各論文に報告された値であり、医療上の助言に代わるものではない。ケガや痛みがある場合は医療機関に相談してください。)